LA - テニス

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境内は随分と人で賑わっていた。屋台もそこそこの数出ていて…

「やっぱ年越しには蕎麦だよな志月」
「いや、コレ蕎麦ちゃうし」

色気もクソもなく蕎麦饅頭を食べていた。
岳ちゃんたちから逃れて境内をウロウロしてるうちにどんだけ食の誘惑に負けて食べ続けている事か。
定番ものからこんな饅頭まで、とにかく目に付いたものを宍戸が買い込んでは食べ歩き。年の終わりの衝動食いか?と突っ込みたい。

「これ、蕎麦粉で出来てんだから蕎麦には違いねえって」
「そりゃ確かにそうだけどさ…何かこう、ニュアンス的なものがさ」
「あー気にすんなて。食ったら同じだから」

どうも今日の宍戸は「気にしない」がテーマらしい。今年もコレで終わるからだろうか?
色々呆れるところもあるけど敢えて止めない。理由、宍戸がとっても生き生きウキウキしてるから。

普段の彼も生き生きしてて学校生活に何ら不満はなさそうで楽しそうにしているけど、今日はまた何処か違う雰囲気。
子供のようにはしゃいでるようにも見えるし、逆に大人びて今年最後を惜しむような時も見え隠れしてるし。
不思議だ。ま、そもそも私と一緒に居る理由も不明のままで過ごしてる。この時点で疑問符は点々とチラついてるんだけど。

「ねえ宍戸ー」
「ん?」
「……やっぱいいや」

そのチラつく疑問符を、一つずつ消していく事なんか出来なかった。

こうして一緒に居るだけで有難いことだと思えばいいのに、チラつく疑問符の所為で何故か落ち着かない自分。
色んなものが、色んなことがゴッチャになりすぎて混乱する。だから変なモヤモヤが出たり、妙に痛かったり、痒かったりするんだ。
でも宍戸にはそんなことは分かってなくて、だからといって分からせるつもりもなくて――…余計に落ち着かない。

「いいのかよ。言わねえとスッキリしねえだろお互い」
「んー…でも何言おうとしてたか忘れたからなあ」
「プッ、何だよソレ」

友達、だよねこの雰囲気。気の合う友達と一緒に居るカンジだよね。
普段着の私と屈託の無い笑顔を見せる宍戸、自分から敢えてそうしたにしても何だかなあ、って今は思う。

「ま、そのうち思い出したら言えよ」
「おうよ。てか、思い出した頃に"何のことだ?"とか言わないでよ」
「あ?お前俺を馬鹿にしてんのか?」
「分かった?」

ペロッと舌を出しておどけて見せて、色んなことを無かったことにしようとした。
「もしかして」と期待するのを止めると決めた自分も、「もしかして」を期待している自分も、「何故?」と考えようとしている自分も全部…無かったことにしようとしてた。
全てを無かったことにすればただただ楽しく過ごせるかもしれない、と…浅はかな自分がそう思ったから。

「まあいい。とりあえず行くか」
「は?何処に?」
「除夜の鐘を聴きに」
「……ん?」
「ん?」
「……宍戸」

まさか、と思いますが。

「除夜の鐘って…お寺で鳴るんですけど」
「……え?」
「え?じゃないよ!神社で除夜の鐘とか鳴らないし!」
「マジか!?」
「こんなとこでボケてどうする!」

ちょっと待てマジかよ!じゃないわよ。
同じ事を二度も確認されても答えは同じに決まってるじゃない!
てか、初詣がしたいんじゃなくて除夜の鐘が聴きたいんなら先に言っておいてくれたら指摘してたわ!それ神社じゃなくて寺だよって!

「ちょっとー…」
「しょうがねえ、行くぞ!」
「は?」
「寺行くぞ寺!」

はあ?と言う間もなく宍戸は私の右手を引いて人混みを避けながら走り出していた。
「走れば間に合う」と言いながらも理由は口にしない。何故、除夜の鐘に拘っているのか、何故そうまでして聴きたいのか。鳴らしたいというのなら話は別だけど聞く限りそういうわけではなさそうで。

「し、宍戸!」
「話しながら走ってたら舌噛むぞ」
「違う違う!その角を右!」
「あ?こっちか?」

今年最後の日だっていうのに馬鹿みたいに全力疾走する私たち。
その様子を見て不思議そう首を傾げる通行人の皆さん。
恥ずかしくて顔を伏せて走るしか出来なかった私だけど、いつの間にか後ろでなく横へ、一方的に握られていた手を握り返していた。



2010.11.28.


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