LA - テニス

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約束の時間10分前、ウチの近所なもんで徒歩ですんなり着いちゃう距離。
オシャレでもない普段着で、かつ薄着なんかじゃなくゴワゴワに厚手のコートを着て私は神社前の鳥居へと向かっていた。
まだカウントダウンには早いというのに結構な人が居て、そこそこの屋台が出ていて…年越しを思わせる雰囲気は抜群だった。
こんな時間だから家族連れというより単独…って言うのかな、そんな人が目立ってて中にはカップルも居た。
動き辛いだろうに着物姿の人も少なくなくて、その艶やかさに目を奪われる。私も、着るべきだったんだろうか。


「あれ、志月…?」

神社って結構あると思ってたけど何で此処を選ぶかなー…
鳥居前、沢山の人の中で見つけたのは他でもない同級生の姿。てか、宍戸のクラブメイトだし。何か、なあ。

「おー…岳ちゃん&眼鏡」
「眼鏡言うな。ちゅうか一人で年越しか?」
「まさか!待ち合わせだよ」
「へえ…にしちゃ、お前ラフだなあ」

いやいや、そういうお二人だって結構ラフだと思いますけど?
皆が皆この日のために頑張って着飾らなくてもいいと思うし、ここで着飾ってたとしても何か言うでしょ。特に岳ちゃん。
出来ればそういうのは避けたくて敢えてラフな格好をしてると言っても過言じゃない私としては少しムッとする。

「別に普段着でもいいじゃない」
「ま、俺らはええんやけど…」
「どうすんだ?友達がちょー綺麗な格好で来てたら」
「その時は慎んで荷物持ちくらいするわよ」
「おー男らし」

あーもう、何か色々うっとおしいからどっか行ってくれないかな。いっそ境内の方に行ってくれればいいのに。
そう思って彼らに「消えろ」と言わんばかりの視線を送るが一向に動く気配は無い。もしかして待ち合わせでもしてんのかな?
……これでテニス部員を待ってるって言うんだったら最悪だわ。完全に鉢合わせする。で、きっと宍戸が――…

「あ、宍戸発見!」
「え?」
「おーお揃いで」

うわ、馬鹿正直に来たよこの男。こっちの心配も他所に特に気にした様子も無く…

「悪いな志月。待たせたか?」
「い、いや、さっき来たと――…」
「は?志月と待ち合わせしたのお前?」
「おう。悪いか?」

あっさり肯定。うわ、ちょっとでも隠してあげるべきかな?と思った私の優しさ返せ。
からかう気満々だった岳ちゃんが戦意喪失して目をぱちくりさせたまま瞬きも出来ないでいるじゃない。あっけらかーんとしすぎだよ。

「てか、お前ら休みの日もくっついてるのかよ」
「……せやね」
「仲いいよな、マジで」

はは、と爽やかに笑う宍戸に忍足までも戦意喪失しちゃったよ。凄いわ宍戸。
そう思いながらも呆然としている私。あ、いかん、岳ちゃんと同じくらい瞬きをしてない気がする。目が乾くわ。
パチパチさせること数回、私を含む三人が呆然としてしまっている状況下で宍戸だけが平気な顔をしてこちらを見た。

「じゃあ俺ら行くわ。行こうぜ志月」
「お、おうよ」

いつもと変わらない宍戸がいつもと同じように前方を歩き出して私はそれを追い掛ける。
恥ずかしいとか誤解されたくないとか困るとか、そういった感情は無いっぽい。結構感情的なくせに今日はソレを微塵も見せない。
何だろう…それはそれで周囲を気にしないと決めた宍戸ならではの戦法っていうんならば宍戸らしいけどバリバリ違和感だ。
だからこそ私の方が逆に気になって来るし、困るんだけどなあ。

「し、宍戸っ」
「気にすんな気にすんな。あんま周囲気にしてっとハゲるぜ」
「いや、そうじゃなくてやね」
「あ?」
「後々困るのは宍戸だと思うよ?」

同じテニス部だし、ましてやあのコンビは口軽いんだよ?確実に私の方が接点少なくて宍戸の方が多いから困ると思う。
謂れのないことでからかわれて、否定しても否定しても逆にそれが面白がられて悪化する。そんなんになったらきっと大変だよ。
そういうので困るんじゃ?と宍戸に話すけど彼はそれでも平気な顔をして「大丈夫だ」「気にすんな」と言う。
うーん、と思うのが私だけ。そんなに気にしないでいいものか本当に悩む。

「大体、最初に言ったろ?俺は困らないって」
「まあ…言ってたね」
「だから大丈夫。つーか、実際のところお前が困るんだろ?」


――困る、困らない。
宍戸との仲を誤解されることに関しては困らない。だけど、宍戸が他に誰かを…と誤解するのは、困る。
宍戸が私との仲を問われてからかわれるのは困る。だけど、それに対して宍戸がきっぱりと「有り得ない」と言ったなら、苦しむ。
他人はいいんだよ。どう思おうがどうしようが。肝心なのは宍戸と私の心だけ――…


「いや…私は困らないけど」
「はは、間があったぞ間が」
「な…っ、間なんか無かったわよ!」

いつも通りの宍戸に合わせていつも通りの自分を演じる。
もう、深く考えるのは止めよう。そう一生懸命自分に言い聞かせて宍戸に並ぶ。
チラリと横目で彼を見るけど彼に変わった様子は無い。やっぱり、そういうことなんだと思えば少しは冷静になれるかと思ったけど、痛かった。



-密かにアナタに恋してる-
2010.11.26.


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