41〜最終話

□第48話
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 口上をあげた神裂が刀を振ると、初めて化物と会った時と同じように、壁や本棚を巻き込みながら攻撃を開始した。 そして、神裂のその攻撃に対し、化物もさっきの焼き直しだとばかりに飛び避ける
 当てた感触が無いのか、神裂が即座に返す刀で追撃するが、俺は少し違和感を感じる
 あの化物はやはり俊敏な動きで神裂の攻撃を避けているが、避けてる間でさえただの一瞬たりとも俺から視線を外さない
 それに恐怖心を抱き、俺は一歩後ずさってしまう。 しかし、それは何よりも貴重な時間を浪費し、絶対的な危機を俺に与えるだけで終わってしまう
 攻撃を避け続けた化物は、途端に急制動を行い醜い口を大開きにして飛びかかって来た。 そのあまりの迫力に腰が引けてしまい、避けるのは間に合わない!?
 大開きされた口が近づけられ、歯の1本1本を数えられるような距離になった瞬間、俺の体は横に力強く引っ張られ何とか難を逃れていた

「大丈夫ですか少年!?」

「ハッ…… ハッ…… ギリギリなんとか」

「しかし、厳しいですね…… 化物のくせに、相手はあなたの方が戦力的に御しやすいからと、狙いをあなたに絞ったようです――ね!」

 神裂は俺を横抱きにしたままで、刀を大きく振るう。 すると、衝撃波なのかはわからないが神裂の攻撃が化物を囲うように突き進み、確かに直撃するのが俺には視えた!

「当たった!」

「チッ…… まだです!」

 攻撃の威力からか、化物に当たった攻撃は化物の周辺に煙で包んでいた。 そして、その煙がかき消えた瞬間、俺の心を絶望が包みこんだ
 薄れた煙から出てきてのは、まるで相対する俺達を嘲笑するかの様に口を歪め、右の爪に少し傷をつけただけの化物だった
 その少しの隙をついて化物は動き出し、書斎に置かれた大きな机に近づいて―――こちらに向けて、その大質量を放り投げてきた

「くっ!」

 だいたい机の近くに居たのはわかっていたねだろうが、まさかその机が飛んでくるとは思わず、そのせいで避けるのが数秒遅れたが神裂が全力でそれを避けた。 それを追撃してくる化物をいなしつつ、気付けば俺達は書斎にある窓まで追い詰められていた

「ど、どうするんだよ!?」

「見えない事がこれほど厄介だったとは…… 敵に背を向けるのは癪ですが、一度体勢を立て直します!」

 神裂はそういうと、立場は入れ替わってしまったがそれこそ先程の焼き直しのように、窓を突き破り雷雨轟く洋館の外へと俺を横抱きにして飛び出した
 そして、俺のメガネは捉えていた。 あの化物が笑みを浮かべ、破れた窓から追撃してくるのを……




視点 土御門元春
 ヨミやんが何かを言うと、気付いたら自分は薄暗い小部屋の中に居た。 あまりの驚愕に周りをみるが、ここはさっきまで居た絵画の飾られた隠し部屋ではなく、小さな灯りで薄暗く照らされた本棚がある全く別の部屋だった
 室内の威圧感は異常で、涼しいこの部屋でありながらじんわりと全身から汗が垂れてくる。 その威圧感の最もたる場所は本棚であり、心の弱い者なら本棚の前に立っただけで失神しかねない
 その本棚に興味を持って手を伸ばすが、本に触れる事なくその手を戻す。 これほどの本だ、読んでただではすまないだろう
 だが好奇心からタイトルだけを幾つか見ると、この洋館の家主だった魔術師を討伐するのは正しいと、それを証明するおぞましい魔道書がしまわれていた
 これはメスナード版、ヘルメス·トリスメギストゥス著の『魔法の哲学』。 こっちはゲーベル著『探究の書』に、アルテナフォウス著『知恵の鍵』。ピーター·ジャム編の『アルベルトゥス·マグヌス全集』に、ゼッツナー版のレイモンド·ラリー著『偉大なる秘術』までありやがる
 これ以上本棚を見ていては、タイトルだけでも酔ってしまいそうになる。 なので、本棚から目をそらしたんだが、こいつらは何をしてるんだ?
 本棚から目を反らした先に居たのは、その本棚から魔道書を抜き取って真剣に読んでいる2人だった
 それに大きく溜め息を吐きつつ、とにかく自分だけでもと考えて祭壇を探し始めるが、この部屋には祭壇足り得る物がどこにも置かれて居ない
 この部屋にあるのは本棚と、古ぼけた棚と机に椅子のみしかない。 いかに探そうが、そもそも祭壇なんて…… いや、待てよ。 そもそも、この部屋が祭壇である可能性がある。 これほどまでの収集品があり、この異様な威圧感からすればその可能性の方が高い
 だとすれば、本棚にも机にも無ければ……

「…… あった」

 棚の引き出しを開けると、その中には銀の鈴が浮いていた。 それを見て少し躊躇するが、それを無視して銀の鈴を取ろうとして―――銀の鈴に触れる事が出来なかった
 目の前に銀の鈴がある空間ごと持ち上げる。 銀の鈴のある空間を持ち上げる形になっているが、いかに銀の鈴を触ろとしても、銀の鈴の周囲には透明な壁が存在していて、直接銀の鈴に触る事ができない
 それを握り潰そうとしても堅くてできず、軽く拳で叩いてみるとコンコンと堅い物を叩く音がした
 そして気付いたらが、この空間の表面には恐ろしい程の魔力があり、今の自分ではこれを破壊できそうにない

「読者中に悪いけど、これを見て欲しいんだぜい」

「…… ん? それが銀の―――え?」

「銀の鈴の回りから変な魔力を感じるんだよ」

 3人でまじまじと透明な箱状の空間に取り込まれ、その魔力を感じる空間に納められた銀の鈴を見つめる。 そして、見つめれば見つめる程に、そこに込められた魔力に困惑する

「結構な魔力量が込められてるにゃー


「ここまで込められてると、すぐに壊すのは難しいかもなんだよ」

 たしかに難しい魔術でもなく、ただただこの箱に魔力を与えてあるだけなので、時間さえかければ苦労もなく魔術を破壊することができるが、その魔力がべらぼうに多いので今すぐ破壊するとなると難しい
 だがしかし、こんな時こそ便利な男が居たではないか。 これを外に持ち出して、カミやんの幻想殺しに触れさせてしまえれば、如何に堅い魔術だろうとものの一瞬で壊してしまえる

「だけどこんな魔術、カミやんにかかれば一瞬なんだぜい」

「たしかに幻想殺しなら一瞬だな。 じゃあここから出るから、またさっきみたいに掴まってくれ」

 そう言ってまた印を結ぶヨミやんの肩に右手でつかまり、手持ちぶさたな左手で銀の鈴をいじっているわけだが…… 一向にさっきの気配は感じられず、視界はこの部屋から変わる事がない
 それが1分2分と続くのに違和感はなかったが、流石に5分を過ぎた辺りから異常を感じ始めた

「どうしたのめいや?」

「関門を開けるけど、通行を拒否されてる……? いや、何だ?」

 不思議そうに首を傾げ、ヨミやんが俺を見てくる。 生憎そんな風に見られても、特に何か妨害の類いをしているわけではないから、そんなに見られても困るだけだ

「ちょっと土御門は手を離してみて」

「?」

 言われた通りヨミやんを眺める。 インデックスはヨミやんの肩を掴んだままだが、ヨミやんは同じ印を結んで歪みに向けて右手を伸ばす。 すると、右手の肘から先が歪みに飲み込まれたように見えなくなってしまった
 その結果をみたヨミやんは1つ頷いて腕を抜き、左手に持っていた銀の鈴を指差した

「凄い魔術師だったんだな。 祭壇にあるものはたぶん監視が盗めないように、ここから持ち出せないようにしてあるみたいだ」

 そう言って苦笑して肩を竦める。 こんな状況で言うのはアレだが、どうにもメイやんは本心からこの仕掛けを魔術師を誉めているようだ
 そういう意味では、ここの魔術師は技量類い希な人物だったんだろう。 しかし、それほどの魔術師であっても組織の強さには心が勝てず、監視を魔術で変身させた挙句にその制御に失敗し、今となっては肉片1つ残さず消えてしまった
 だがしかし、今は亡き魔術師を手放しで褒めるわけにも、よくもこんな仕掛けを作ったと怨み言を言う暇もない。 カミやんにまかせればいいという目論見が早くも崩れ、絶対的に戦力不足の3人でこの銀の鈴を破壊しないとならないのだ
 どうしたもんかと考えるなか、ふとヨミやんが思い出したように魔道書を読み始めた。外には聖人であるねーちんが居るからそうそう殺られる事は無いだろうが、カミやんはあくまで幻想殺しを持った一般人に過ぎない。だから何をするにも急ぐべきなんだが、何を考えているんだ?

「なあ土御門、お前魔術は使えるのか?」

「俺は陰陽師という魔術師だせい。 魔術程度、この土御門さんにかかればちょちょいのちょいで「ステイルに聞いたけど、能力者は魔術を使えないんだろ?」…… 無理じゃないが、デカイ魔術だとキツいな」

「できる限り規模は小さく抑えるけど、もしもの為にインデックスと2人で結界に入ってて欲しいんだけど」

「それぐらいなら可能だ」

「じゃあ、これをどうにかするから頼む。 土御門の命に関わらない程度に、だけど全力で結界を作ってくれよ」

 メイやんが何をするかは気になるが、銀の鈴を破壊する手段があるならば使わない手はない
 メイやんに言われた通り、出来る限り頑丈に、出来る限り強力に、そして出来る限り精密に結界を構築していく
 ただ、好奇心から何をするのかとメイやんの方を見れば、その手に魔道書を開き何か準備を始めていた。 その魔道書のタイトルである無名祭祀書に気をとられて止まっていると、メイやんには「危険だから絶対にこっちをみたら駄目だ」と言われてしまった
 そこからはメイやんに背を向け、インデックスもメイやんの方を見れないように抑えていると、後ろから独り言でブツブツと「石に変える薬の概念」だとか「魔物の神」だとか「ヤディス=ゴーの地底」だ等と言っているが、こっちには何が何やらさっぱりわからない
 そして、その時が来た
 涼しい部屋の空気は、今では霞がかかったように極寒の冷気の如く震えあがり。 冥哉が口を開いて何か得たいの知れない言語を溢す度に、この部屋のありとあらゆる物が恐るおののいた
 言葉の意味はわからないが言葉に込められた力は計り知れず、まるで世界がゆっくりとだが降伏し傅くかのようだった
 急に目の前から光が消えた。 視界は眩しい程の光を受けた様に白くもあり、深淵を覗いたかのように暗くもあった。 だがしかし、如何なる状況に陥ろうと結界の感覚だけは離さない
 だが…… だからこそ、自身の張った結界の異常を感じ取った。 背面にある結界の中心から、まるで結界を侵食するように喰い尽くすように、ゆっくりと石化が始まったのだ

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