物語
□桜色
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春が来た。
嬉しい。
僕は春が好きだから。
あったかいし、ね。
それにほら。
君がそんなに嬉しそうに笑うから。
『桜色』
「沖田さん、沖田さん!」
僕の名前を呼びながら、何がそんなに嬉しいんだろうと思ってしまうほど輝く笑顔で彼女───千鶴ちゃんは僕を中庭に連れ出した。
「どうしたのさ、急に」
「見てください、あれ!」
千鶴ちゃんが指差す方に視線を移し、僕はああ、と頷いた。
「咲いたんだね、桜」
「はい!」
「でもまだ三分咲きってとこかな」
「でも、きっとすぐ満開になりますよ」
微笑みながら、千鶴ちゃんは桜を見上げていた。
その横顔は、優しくて穏やかで、驚くほど綺麗で。
「……綺麗だね」
「え?」
君のことだよ、と言いたかった。
きっといつもみたいに、真っ赤になって戸惑うんだろう。