Sweet

□震える唇が紡ぐ名前は僕じゃない
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ユニを捕まえてから少しの年月が経った。
ねぇ、ユニちゃん。君は僕のもの。そう思いこんでるのは僕だけなのかい?
隣で眠るユニの黒髪に触れて撫で下ろす。指の間をすり抜ける髪は手触りがよくて癖になりそうだった。

このまま、…このまま君を今すぐにでも僕だけのものにしてしまいたい。
そう思っていても本当に好きな子には手が出せないもので。
でも、それは間違い。なぜなら今日僕はユニに手をあげてしまったからだった。





昼間、ユニのこの部屋にお菓子を持ってくると激薬の投与も何も施していないはずなのに、彼女は心を失った…光のない目で窓の外を眺めていた。
ここ何ヶ月もずっとそうだった。ユニは…始め会う前はただ僕の支配下として感情の無い人形でいればいいと思ってたんだけど、出会ったその日にユニの可愛さ…愛くるしさに僕は一目惚れしてしまったんだ。
それなのに、君ときたらいきなりγ君とイチャつくんだから…ヤケちゃうよね。




大人ぶってその場は流して。ひとまずユニのファミリーと遠ざけてから僕は薬の投与を止めた。
ユニはハッキリとしたクリアな意識で僕と対談したんだ。









「…白蘭、あなたが私を欲する理由は…」







「ああ、悪いけどトゥリニセッテが目的じゃないんだ」








僕の言葉にユニは眉を寄せて心を見透かそうとする目を向けてきた。
僕はユニに近付くと彼女をこの腕に抱き真剣に告白した。








「一目惚れ…ってやつ?初めて会った時から僕は君が…」






「止めてください…!」








ユニは細い腕で僕を押し退けようとしたけど所詮非力な少女の力。僕は離してやらなかった。ユニがいつもより近くにいる意識が強くて、このまま閉じ込めてしまいたい気持ちが膨らんで自分でも収拾がつかなくなってしまっていた。
ユニはこんな展開を予想していなかったらしく相当焦った様子で僕の胸を精一杯の力で押していたがビクともさせない。









「ユニちゃん。僕はトゥリニセッテなんてもうどうでもいいんだ。君を手に入れたから、ね?」









それは単なる自己満足でしかないことを僕は自分でもわかっていたのに。
手の届かない彼女が愛おしくて愛おしくてその姿を見ているだけで幸せだったんだけど人間って欲深いんだよね。…僕のような人間はなおさら。わかるでしょ?
次第にユニの全てが欲しくなってきた。ユニの笑顔を見たいけど見せてくれない。ユニの心が欲しい。


どうにかしてユニの心を掴もうと一方的なデートに連れて行ったりうまい物をご馳走してあげたりしたんだけどユニは悲しい顔のまま。料理は口にしないで日に日に痩せていった。
僕はそんな彼女を見るに堪え兼ねなくなっていた。
どうして心を開いてくれない?




ユニはどうやら、僕が全ての権力を手に入れる前に僕の手から逃れようとしていたらしいがそうもいかなくなった非常事態に絶望していたらしい。
それはどうしてかと言うと僕が権力を捨てユニを24時間…僕以外の誰にも会わさないことによって完全に外部との交流をシャットアウトされたからだ。
つまり、もう未来は変えられない。ユニはこのまま一生を僕の中で過ごすしかないことを悟っていたから本当の感情を無くした人形になってしまったのだ。
日々窶れていくユニ。元々細い体が余計にか細くなっていって健康的な肌は艶を失う。
僕がユニの部屋に監視カメラから離れて遊びに行っても口をきくことなく知らんぷりで、ただ自由を求めるように窓の外だけを眺めていた。



そんなユニを見かねて、ある日僕はユニに声をかけた。







「ユニちゃん。そろそろ僕のことちゃんと見てくれてもいいんじゃない?」






「……………」







「ね、ユニちゃん」







「……………」







「聞いてる?」








「……………」








僕の呼びかけを無視して窓だけを目に映していた。
僕はなぜか悔しくなって、ユニの頬を強く叩いてしまった。力無い、弱々しい小さな体は軽い綿のように逆らうことなく飛び、倒れた。
僕は自分のしたことにどうしようと焦りを感じながらユニの身を案じて彼女を抱き起こしてごめん、って謝ったんだけどそれでもユニは光のない瞳で…黙っているだけだった。





そんなことがあった今日、僕はどうしても落ち着かなくてやらないって決めてたのに夜中こっそりとユニの部屋に向かった。
すると昼間には聞こえない小さな…何か音が聞こえてきたのだがそれは直ぐに止んだ。
僕は戸を静かに開けてユニの眠るベッドに近寄った。
ベッドに眠るユニを見ると疲れ果てたように熟睡していて、ユニの手に触れ撫でているとあることに気がついた。



袖が…濡れてる。



やっと気がついたがユニは月明かりに照らされ目を赤く腫らしていた。
これは相当泣いた後だったのだろう。何が彼女をこんなにも悲しませるのか…理由は明らかで、僕自身だった。

一人孤独に毎晩毎晩…ここで泣いてたんだ。
どれだけ心細かったんだろう。どれだけ悲しかったんだろう。どれだけ寂しかったんだろう。






ユニに代わってあげたかったけどそんなことは僕が世界の創造者になっても出来ない。
僕と君は違うから、違うからこそこんなにも盲目に好きになれるんだ。








そんな時、ユニは僕の手をギュッと小さな手で握ってきた。
僕は一瞬ビックリしたけど、自分が認められたようで嬉しかった。








「ユニちゃ…」






「…γ…」




















けれど、その唇が紡いだのは…僕じゃなかった。
震える声は確かに、あの男の名を呼んだ。
ただ寝ぼけて僕の手を僕だと知らずに握っているだけで。結局はユニは僕のことなんて見てなかったんだ。






僕のものになれば幸せにしてあげられるのに。
ユニの強い精神力が愛おしくもあり、今だけは…憎らしかった。
































震える唇が紡ぐ名前は僕じゃない


いつになったら…

君のその唇は

僕の名前を呼んでくれる?











Cooperation
Nenia
Master.玄鳥様へ

イラストに続いての参加でした。お題のおかげで、内容を考えやすかったです。
ハッピーエンドにしたかったのに…。と少し後悔しております。
素敵なお題を有り難うございました。
このような作品で良ければお受け取り下さい。
 

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