捧げ物

□劣等感
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梅雨の時期のためか外ではもう一週間も雨が降り続いていた。
じめじめと気持ちの悪い空気が漂う。
それはある意味今の蛇骨の気持ちと平行するように。
蛇骨は主であるべき人物のいない部屋で今晩もまた1人、晴れない空を見上げて帰りを待っていた。


「………お…あにき…」


返事の返って来ない呼び掛けを呟いたのはもう何回目だろうか。
蛮骨が城下町の遊女達の元へ出掛けて早一週間。
その日から空が晴れないように蛇骨もまた沈んだ心を1人寂しく抱き締めていた。


「なんで…帰って来ないんだよ……」


数日前まで自分と蛮骨はいつも一緒で離れることの方が有り得なかった。
いつも隣りにいて、いつも笑い掛けてくれて、いつも抱いてくれた。
好きだ、愛してる、と何度も囁いてくれた。
だが、いつぞやの戦で城を落としてから、蛮骨は変わってしまった。
その戦はいつもと同じく簡単に済んだ。
城の人間を皆殺しにするために城内に踏み込んだ時だった、隣国まで届くほど美人だと噂になっていた姫に会ったのは。
もちろん蛇骨は迷いなく切り捨てようとした。
だが蛮骨はそれを止めた。


「もう少し楽しんでからでもいいだろ?」


そう言って泣きわめく姫を家臣達の前で犯した。
蛮骨が女を抱くのは気に食わなかったが嘆き悲しみ苦しむ家臣達と姫を見るのは楽しかったから別に良かった。
その後はもちろん全員殺した。
だが、それからだった。
蛮骨が遊女達に頻繁に会うようになったのは。
女の味をしめたんだ、蛇骨はそう思って嘆いた。
自分が持っていないものを持っている女が憎い、蛮骨を奪った女を殺してしまいたい、何故自分は男なのだろうか…。
考えても考えてもことは解決しなかった。
だから蛇骨はこうして毎晩、蛮骨の帰りをただひたすら待ち続けた。
愛しい香りの染み付いた布団を胸に抱きながら。


「………」


今日も帰って来ない、そう思って涙が流れるのを堪える。
すると後ろで襖が開く音が聞こえて咄嗟に振り向く。
そして、堪えていた涙が溢れ出した。


「っ……ぁ…兄貴…」

「………蛇骨…?」


暗くてよく見えないのか目を細めながら蛮骨はゆっくり歩み寄って来る。
数日振りの蛮骨の声は蛇骨の胸を満たすのに充分すぎるくらいだった。
いや、その姿を見ただけでもうあらゆる感情が吹っ飛ぶくらいだ。
だがそれも一瞬のこと。
蛮骨の首元を見て、蛇骨は凍り付いた。


「大兄貴…なに、それ…?」


逞しい体の首筋に点々と見える紅い跡。
蛇骨もよく付けてはいたが、今あるものは自分が付けた覚えのないもの。


「あぁ、これか。お前が気にすることじゃねぇよ」


素っ気無く言い放つと蛮骨は蛇骨の隣り座った。
何を言うべきか分からずただ自分を見つめる蛇骨を無視して蛮骨は寝間着に着替えだす。


「……大兄貴…」

「なん……っ!!」


振り向きもせずに返事を返そうとする蛮骨の着物の襟を掴んで布団に押し倒す。
咄嗟のことで流石の蛮骨も対応しきれず仰向けに倒された。


「っ…何しやが」

「うっせえよ!!!」


珍しく声を荒げる蛇骨を見て蛮骨は目を丸くする。


「俺が…俺が…」


震える声と体を必死に押さえながら蛇骨は言葉を絞り出した。


「…どんな気持ちで待ってたか…知らないくせにっ!!」


大粒の涙を目に溜めながら蛇骨は声を荒げた。
流石に悪いことをしたと思い、蛮骨は優しく蛇骨の頬に触れた。
が、その手は振り払われ自分の腰に巻いていたはずの帯で固く結ばれた。


「蛇骨っ……なにす…!?」


抵抗しようとすると唇を奪われた。
侵入してきた舌に歯列をなぞられると感じたことのない感覚がゾクリと背筋に走る。
その間に蛇骨は蛮骨に乗り掛かり身に着けていた鎧と肩当てをいとも簡単にはぎ取っていく。


「んぅっ……はっ…」

「どう大兄貴…襲われるのって興奮するだろ?」

「はぁっ…蛇骨、てめぇ……」


笑っているのに瞳は悲しみに帯びている。
なんとも言えない表情の蛇骨に蛮骨はどうしてやることも出来ずただ黙り込んだ。
それを良いことに蛇骨は蛮骨の着物を脱がし始めた。
着物の前をはだけさせると肉付きの良い引き締まった身体が現れて、思わず蛇骨は赤面した。
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