書物

□後遺症
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「っ……ぅっ……うっく……」

「蛇骨…もう終わった……アイツら全員殺したから…」


そんなことで蛇骨の傷が癒える訳じゃない。

分かってはいるが、俺にはそれしかできなかった。

「殺し」しか知らない俺にはそれしかないから。


「…だ……やっだ……やめろ…よ……っ」

「っ……蛇骨…」


手の色が変わるくらい俺の着物を握り締め、身体を震わせて必死に忘れようとしている。

だがそれが出来ない。

そうする度に思い出すからだ。


「蛇骨…手、痛ぇだろ?力抜…」

「やだぁぁあ!!!離さないでぇぇえ!!!!」

「いっ…!」


手から力を抜かせようとしたら絶叫して俺の手を握り締める。
しかも爪をたてやがった。


「あ……ごめ…ごめん…なさい……俺っ…」

「いいから、気にしてねぇから」

「…俺……ごめ…ん……ひっく…ごめん……」

「泣くなって…この方が落ち着くんだろ?じゃあそうしてろよ」


左手を握らせたまま片手で抱き締めてやる。

そうして話し掛けてやると割りと落ち着くらしく、言葉が柔らかくなってきた。


「大兄貴……ごめんなっ……俺…迷惑ばっか…」

「ばーか、手の掛かる奴程可愛いんだよ」

「うっ……兄貴…兄貴ぃ……」

「そうやって俺のことだけ考えてろ…他のことなんか考えんな」

「兄…貴……蛮骨の…兄貴ぃ……兄…貴」


しばらく背中を擦ってやると、微かに寝息が聞こえてきた。

やっと寝付けたらしい。

そのまま蛇骨を抱えて一緒に布団に入る。

離れないようにしっかり抱き締めて…。

また明日、コイツが
この脆い傭兵が
笑って、
笑顔で俺の元に寄り添ってくるように、
居ない神様に静かに祈った。





俺には「殺し」しかない

それ以外は知らない

だから、

俺はそれでお前を守る

二度と同じことはさせない

お前を泣かせるモノ

全部壊して殺してやる


なぁ、


頼むからもう泣くなよ


俺がお前を守るから


笑ってくれよ


なぁ




完。
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