ALLEGORY-BLUE

□赤い実
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若木が実をつけ始めて何年か経ちました。
東に住む一人の富める者が、どうしても赤い実を手に入れたいと思いました。
しかしその者の子供達は誰も美しくはありませんでした。
そこで、富める者は村一番の貧しき者に声を掛けました。
今年十五の歳になる貧しき者の娘を養子に欲しいと。
その娘は大層美しい娘だったのです。
貧しき者は赤い実より日々の糧が欲しいと思いました。
富める者は美しい娘を、貧しき者は沢山のお金を手にしました。
娘はその年の一番の美しい者として城に上がり、富める者は赤い実を手に入れたのです。
それから国では秘かに養子縁組みが行われるようになりました。

養子縁組みが行われるようになり何年か経つと、富める者と貧しき者の差があまりない国になりました。
そんなある日、青い実をつける木を持つ国の青年がやって来ました。
青年は言いました。
自国では国の者は皆、誰でも青い実を食べる事が出来ると。
青い実は知恵を授ける実、その昔国王はこの木を国中に植え、誰でも食べてよいと許しを与えたと。
人々は皆楽しく暮らし、永らく国も栄えているそうな。
今でも国の者は皆国王を尊敬し、忠誠を誓って暮らしていると言います。

三つの村の長達は王に伺いをたてました。
我が国も沢山赤い実のなる木を植え、誰もが食べてよいとしてはどうかと。
王は言いました。
青い実と異なり、赤い実をつける木は、沢山植えると枯れてしまうかもしれない。それでもよければ好きにするがいいと。
村長達は悩みました。もし枯れてしまったら…。
そんな重大な責任を伴う決定など、自分達でしてよいものか。
その様子を見た王は言いました。
もしかすると、青い実のなる国はこの国の赤い実を狙っているのかもしれない。我々は自分達で我々の赤い実を守ろうではないか、と。
村長達は嬉しく思いました。王が一緒に赤い実を守ろうと言ってくれた。我々国の者と王はちゃんと繋がっているのだ、と。

それから幾月か経ちましたが、青い実のなる国の青年が祖国に帰ることはありませんでした。青年を乗せた船が沈んでしまったからです。ある晴れた穏やかな波の日に。
それからというもの、赤い実のことと、青年のことは国の秘密となりました。

人々が口を噤み、静かに暮らすようになって何年か経ったある日、今度は黒い実のなる木を持つ国の青年がやって来ました。
黒い実は真実を授ける実だとその青年は言いました。
青年は赤い実にも何か力が宿っているのではないかと、国の人々に聞きました。しかし誰も知らないと答えます。
何日か過ぎ、青年が国に帰ろうとしたある日、隣の村でお祭りが開かれると聞きました。
高い丘にある赤い実をつけた立派な木の元に、沢山の人が集まっています。
その中に、一際美しい娘と少年が並んで立っておりました。娘はにこやかに、少年は哀しそうにしながら。
村人に尋ねると、彼らは今年国で最も美しい者に選ばれ、これからお城に仕えに行く身だというのです。
そんな晴れやかな席に関わらず、何故少年は哀しそうな顔をしているのか、青年はとても気になりました。

祭りが終りに近付き、人々が慌ただしく帰り支度を始めました。
美しい娘と少年は、丘近くにある実の小屋と呼ばれる所で明日を待ちます。
そして明日、朝陽が親木の赤い実を照らし始める頃、いよいよ城へ向けて出発するのです。
娘は東の木の実を、少年は西の木の実を持って。
今年親木の実を持ち、城へ付き添うのは北の村長です。

青年は決心しました。今夜少年に声を掛けようと。



続く…

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