ALLEGORY-BLUE

□禁忌の森
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双子の兄妹が十三歳になった秋、城下では収穫祭が催され、大勢の人で賑わっておりました。毎年行われる収穫祭ですが、この年の収穫祭は特別でした。

今国を治めているのは、黒い瞳を持つ女王です。とても聡明な女王でしたが、なかなか子供を授かる事ができませんでした。
そしてようやく授かったのはただ一人の王子。女王はこの王子を大切に大切に育てました。その甲斐あって、王子は立派な青年に成長しました。
そして今年、十五歳になった王子は試練を受けに森に入るのです。
ただ一人の子供が黒い瞳を持つ者、女王はできるなら王子を森に行かせたくはありませんでした。
かつて女王自らが受けた試練、どのようなものかはよく分かっています。しかしそれを口にする事は許されません。
試練の事は誰にも明かしてはならないのです。例え我が子であっても。
試練の事や示唆された女神の言葉は決して口外しない、それは女神とかわした誓いなのです。

三日の間続く収穫祭、その最後の日、王子は白い衣装をまとい森に入ります。
女王は、森に入る前にせめて楽しい思いをさせようと、盛大に収穫祭を催す事にしました。
あちこちから商人を招き、世界中の珍しい品々を王子に見せました。
また、遠くを旅する詩人を招き、様々な詩を聞かせました。
隣の国からは貴重な果物を取り寄せ、王子に食べさせました。
そして国内からは、世界で一番と言われる歌い手を招き、その歌声を聞かせました。

城下から戻った若者の話を聞き、双子の兄妹も賑わう城下に行きたくて仕方ありませんでした。しかし両親は、城下に行く事を許してくれません。双子は隣の村にしか連れて行ってもらった事がないのです。何故か城下に行く事だけは許してもらえません。
今日はもう収穫祭最後の日です。双子の兄妹は両親を騙す事にしました。
城下から戻った若者に、薪集めを手伝ってほしいと誘いに来させ、その間に城下に出掛けるのです。

双子の暮らす村は国の南西にあります。森に入る事は出来ないので、北にある城下には、森の外、西側を大きく廻って行かなければなりません。双子が城下に着いた時にはもうお昼をとうに過ぎておりました。
それでもまだまだ賑わいをみせる城下。双子の兄妹は、フードを目深にかぶり、視線は下に向けながらも、賑わう城下の雰囲気を楽しみました。人々の流れに身を任せ、あちこちで交わされる催しの評判を聞きながら歩いてゆきます。
小遣いを持っていない双子の兄妹は、お店に入る事も、見世物を見る事もできません。まして、村の外では瞳が見えぬよう下を向いて歩くように言われております。
それでも双子の兄妹は十分楽しい気持ちになりました。わくわくした空気を纏いながら、仲良く手を繋いで歩みを進めるうちに、双子の兄妹は大きな広場に出ました。
広場の中央には立派な馬に乗った白い衣装の青年がいました。周りを厳めしい衣装を着けた兵隊が囲み、そのまた周りを人々が囲んでいます。
みんな何やら口々に言っています。
『王子様お気をつけて!』
『ご無事をお祈りしております王子様!』
そう、馬に乗った青年は王子だったのです。
双子の妹はどうしても王子を近くで見たいと思いました。兄もまた、是非黒い瞳を見たいと思いました。
二人は周りを囲む人々の間をなんとかすり抜け、群衆の一番前まで来ました。
しかし、フードを深く被っている二人には兵隊の足元しか見えません。せてめもう少し近付きたいと、人々の所から一歩前へ出た瞬間、大きな手に突き飛ばされてしまいました。王子を守る警護兵です。
突き飛ばされた双子は、人々の壁に寄り掛かるように後ろに転けました。そして尻餅をついた拍子にフードが脱げてしまいました。
双子の兄妹は慌てフードを被ろうとしましたが、焦ってなかなかうまくゆきません。後ろにいる人々に笑われ、更に焦ります。
その騒ぎに、何事かと馬から見下ろす王子の瞳が捉えたのは、フードを被れずに焦りながら見上げる、黄金色の瞳とルビー色の瞳でした。



続く……
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