ALLEGORY-BLUE

□木こりと鳥
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心優しい木こりは、妻がどんな言葉をかけても受け入れませんでした。
秋も深まり、妻はやって来る冬に備え忙しく働きました。
泣き続ける心優しい木こりの代わりに、枝を集め、キノコを採り、木の実を干します。
そして妻はいつものように鳥に卵を貰ってきました。
いくつかに一つ孵化(かえ)らない卵ができてしまいます。
親鳥達はその卵をくれるのです。
一週間に一度、大切に大切にその卵を頂きます。
しかしようやく少しだけ顔を上げるようになった心優しい木こりは、妻が卵を抱えているのを見て怒りました。
こんなに辛い思いをしているのに、鳥の卵を食べられる訳がない、と。
二度と卵をとってくるな、と。
妻は一生懸命説きました。
でも心優しい木こりは聞こうとしません。
ただただうちひしがれるだけです。

森が雪に閉ざされる冬がやって来ました。
音のない静かな冬。
聞こえるのは心優しい木こりのすすり泣く声だけです。
そしてもうすぐ春になろうとするある日、一羽の鳥が心配そうに心優しい木こりの様子を見にやってきました。
でも項垂れる心優しい木こりに声を掛けられず、そっと去っていきました。

木々が芽吹く春がやってきました。 心優しい木こりはあまりの騒がしさに顔を上げ外を見ました。
外にはたくさんの子鳥を連れた親鳥がいました。
『心優しい木こりさん、こんなに沢山の可愛い子供達を授かりました。どうかあなたも元気になってください。』
それは心優しい木こりが死なせてしまった雛の親鳥でした。
冬の終わりに訪ねて来た鳥でした。
それを聞いた心優しい木こりはようやく泣くのをやめました。
そしてもう大丈夫だと言いながらしっかりと顔を上げました。
親鳥は安心して子鳥達を連れ、帰って行きました。
元気に羽ばたく鳥達を見送った心優しい木こりの顔には、ほんのりと笑みが戻っていました。
そして心優しい木こりは妻にも大丈夫だと言うために家の中を振り返りました。
笑みの戻った心優しい木こりが目にしたのは、家の奥で寄り添うように横たわる妻と子供の姿でした。
もう冷たくなって動かない姿でした。
テーブルには干した木の実が一つ、心優しい木こりのお皿に置かれてありました。
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