ALLEGORY-BLUE

□ピエロと金魚
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『哀しい化粧は笑わせるため
おどけた仕草は楽しませるため
とぼけた姿は馬鹿にされるため
さぁさぁ見ておくれ、滑稽な道化師を』



化粧を落としたピエロが金魚に語りかけます。
ーお前は美しいねぇ。なんて優雅で自由なんだ。

今ピエロの顔に哀しい化粧はありません。



化粧をしたピエロが金魚に語りかけます。
ー私はちゃんと醜いかい?滑稽な姿をしているかい?

今ピエロの瞳は金魚を見ていません。



金魚はピエロに聞きました。
ーどうして美しい顔で私を見るの?どうして哀しい顔で自らを見るの?

金魚の言葉はピエロには届きません。



ピエロが大きなボールに乗ってはしゃぎます。
はしゃいではしゃいでボールから落ちます。
ピエロは落ちなくてはいけません。
笑われなくてはいけないから。
ピエロを落とすボール。
ピエロにとっては大切な大切なボール。


ピエロが金魚に言いました。
ーねぇ、ボールは綺麗だよねぇ。虹色のボールは綺麗に僕を振り落とす、素敵だね。

化粧をしたピエロの顔は誇らしげでした。

ピエロが空を見上げます。
ーねぇ、君は飛びたくないかい、空を。
僕はね、本当はブランコ乗りになりたかったんだ。
高く高く飛びたいんだ。

哀しい化粧を落としたピエロの顔は夢を見ているようでした。



金魚は餌を食べることを止めました。
ボールになりたいから。
水を飲むのも止めました。
丸いボールになりたいから。
泳ぐのも止めました。
綺麗なボールになりたいから。

何も入っていない金魚のお腹が丸く膨れます。
ぷわんと大きく膨れます。
空にお腹を向け、プカプカ漂います。
雲を映して浮かびます。
赤い金魚は赤いボールになりました。



化粧を落としたピエロが赤いボールを手に取ります。
水色の波が雲のように美しいボール。
ピエロの胸に飾られた小さな赤いボール。



ピエロは哀しい化粧で空を舞います。
ブランコに脚をかけて揺れるピエロは幸せそうです。
ー僕にはもう虹のボールは要らないんだ。こんなに高く飛べるんだから。人が小さくて楽しいね。



赤いボールはずっとピエロに飛んでいてほしいと思いました。
嬉しそうなピエロ。
綺麗なピエロ。
もっと高く、空へ舞い上がれ。

金魚の願いは叶いました。
ピエロは二度と地に降りる事はありません。

哀しい化粧をしたピエロは地に横たわります。

化粧を落としたピエロは空に駆け昇ります。

観客の悲鳴は祝福の声。



ピエロは笑われなくてはいけません。
さぁさぁ、わらっておくれ道化師を。
 

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