ある所に、四方を海に囲まれた美しい国がありました。 三日も歩けば一週できる小さな国ですが、穏やかな気候に、貧富の差も少ないこの国は、世界から幸せの国と呼ばれております。 そんなこの国にもその昔、富める者と貧しい者がいる時代がありました。 富める者は更に富み、貧しい者は更に貧しくなる。 富める者は永く生き、貧しい者は自ら命を絶つ。 そんな時代でした、一人の若者がこの国を訪れたのは。 遠い国からやって来た若者は、一際高い丘にある大きな木の下で、海に囲まれた美しい国の不思議に思いを馳せておりました。 若者が見上げる大きな木には、一つの赤い実がなっています。 一年に一度、一つしか実を付けないと村人は言います。 その一つしか付けない実を、傷付けないよう大切に採り、王に捧げるのだそうです。 赤い実には不思議な力が宿っており、それを食べた王は若々しく元気になり、とても長生きをするのだというのです。 若者は村人に尋ねました。 この国の人々は赤い実を食べたいとは思わないのか、と。 村人は答えました。 一つしかならない貴重な実、王以外が口に出来るものではないと。 若者は言いました。 ならば実を増やせばいいと。 一つしか実らないなら、木を増やせばいいと。 村人は長(おさ)にこの話をしました。 村長は、他の二つの村に遣いをやり、村長達を呼び集めました。 この国には三つの村しかありません。 その三つの村の長達は、三日三晩真剣に話し合いました。 そして、王に木を増やしたいと頼んでみる事にしました。 翌朝、村長達は三人揃って城に出向き、王に謁見を申し入れました。 そして勇気を振り絞り、木を増やしたいと王にお願いをしたのです。 すると意外にも、王は村長達の願いを快く受け入れました。 村長達は嬉しさのあまり、王が出した条件の事を深くは考えませんでした。 王が出した条件は三つありました。 其の一、木はあと二本しか増やしてはならない。赤い実のなる木から東と西に歩いて一日目の所に一本ずつ。 其の二、新たな木につける最初の実は王に捧げること。 其の三、新たな木に実がなった年は、国で最も美しい十五の歳の娘か少年を王に仕えさせること。その者の家人に、新しい木のその年の実を食べる事を許す。 赤い実をつける大きな木の一番高い所にある枝を二本伐り、一本は東に一日、一本は西に一日歩いた小さな丘に植えました。 植えてから三年、か細いけれど生き生きとした小さな木になりました。 それから更に三年、人の背丈より大きくなった木は、元気に緑の葉を生い茂らせました。 それから更に三年、若木は二本揃ってようやく小さな白い実をつけました。 秋になるとこの白い実は真っ赤になります。 初めてできた赤い実、うやうやしく王に捧げました。 翌年もまた実をつけた若木、国中の人々は沸き立ちました。 誰が実を手にできるのか。 実が赤く色付く秋、国の人々は祭りを開く事にしました。 国中の十五の歳になる美しい娘と少年の中から一番を選ぶ祭りです。 選ばれた少年は怖々、娘は胸を高鳴らせ城に赴きました。 その年、王から実を食べる事を許された娘の家では泣く泣く両親が、少年の家では嬉々として叔父夫婦が実を食べました。 なんて甘くて美味しい実なのでしょう。 食べた者は若々しく元気になりました。 若木は毎年実をつけました。 いつしか高い丘にある木は親木、東の若木は嫁木、そして西の若木は婿木と呼ばれるようになりました。 続く… |