ALLEGORY-BLUE

□禁忌の森
1ページ/9ページ

ある月の輝く美しい夜、村に元気な双子が生まれました。
陶磁器のように白くすべらかな肌に、ふっくらと咲く淡桃色の花びらを思わせる唇が愛らしく、髪は漆黒の輝きを放っておりました。
窓から覗く月が羨むほど、それはそれは美しい双子でございました。
そして大層良く似た双子でした。瞼を閉じていると両親でさえ見分けがつかぬほどに。
本当によく似た双子、違うのは瞳の色だけです。
双子の兄は黄金色の瞳を持ち、妹はルビー色の瞳を持っておりました。

鍛冶屋を営む父親と、綺麗な布を織る母親の愛情に慈しまれ、双子の兄妹はすくすく大きくなりました。
双子が三歳になったある日、兄が母親に尋ねました。
『どうしてお父さんとお母さんの目は蒼いの?』と。
母親は答えました。
『この国の人々は皆水の精霊の加護を受けているからよ。だから海や川、湖の色を瞳にくださるの。』
そう、この国の人々は皆蒼い瞳をしておりました。
『それじゃあどうして僕たちにはくださらなかったの?』
悲しそうに兄が聞きました。
『あなた達はきっと女神様のご加護を受けているのです。』
母親は優しく微笑みながら言いました。

珍しい瞳を持つ愛らしい双子は村人達にも可愛がられ、すくすく成長いたしました。
双子が六歳になったある日、妹が父親に尋ねました。
『どうして森に行ってはいけないの?』と。
『あの森は国王様だけが入る事を許された森なんだよ。』
父親は娘を膝に、息子を隣に座らせ、森の話を始めました。

この国の真ん中にはとても大きな森があります。
森の奥深く、中央には知恵の女神が静かに眠りについており、決して起こしてはならないと言い伝えられています。森の四方にいる番人が入る者を拒み、唯一許されるのは、黒い瞳を持つ国王だけだと。
国の北に城を構える国王は、代々黒い瞳を持っておりました。いえ正確には、黒い瞳のものしか国王になれないのです。
いくら沢山王子や王女が生まれても、黒い瞳を持っていなければ王位は継げません。今まで幸いにも必ず一人、黒い瞳を持つ者が生まれてまいりました。
黒い瞳を持って生まれた赤ん坊は、生まれてすぐに国王に連れられ、森の中央に住まう女神から祝福を受けるのです。そして十五歳になると独りで森に入り、四方の番人から出される試練を受けなければなりません。
北の番人からは地の試練、東の番人からは風の試練、南の番人からは火の試練、そして最後に西の番人からは水の試練が与えられるのです。
この試練を越えなければ、女神から伴侶になるべく人間の示唆を受ける事が出来ないと言われております。そのため、この森は試練の森とも、番人の森とも呼ばれているのです。人々は森を畏れ敬い、決して近づこうとはしませんでした。
この試練を立派に乗り越え、女神から示唆を受けた王子は女を、王女は男を娶り、そこで初めて王位を継ぐ資格を与えられるのです。
黒い瞳の王は繁栄を、黒い瞳の女王は平安をもたらすとされています。

双子の妹は目を輝かせて父親の話を聞きました。
自分達と同じように、蒼い瞳ではない者がいる。
そしてそれは森に入る事が出来る者、妹はそれが嬉しくてなりませんでした。



続く…
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ