ALLEGORY-BLUE

□月が泣いた理由(わけ)
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新たに月が生まれたある夜
小さな花は哀しそうに佇む一人の青年に出逢いました

とても美しい夜なのに
その青年の瞳に映っているのは
月が照らす青年自身の淡い影だけでした

小さな花の心は締め付けられました

どうしてあなたの瞳は輝くものを映さないの?

小さな花は青年に問いかけました

けれど青年の瞳は
その闇を濃くしただけでした

ならば共に映しましょうあなたの闇を
その影が消えるまで

小さな花は願いました



また新たに月が生まれた夜
青年はわずかに顔を上げて佇んでいました

瞳に雫を抱いて
何もない彼方を見つめていました

どうしてあなたの瞳には雫が溢れ続けるの?

小さな花は問いかけました

けれども雫は瞳を覆い隠したままでした

ならばわたしが嚥み干してあげましょう
その雫が渇れるまで

小さな花は願いました

だから微笑んでください
ほんの少しでいいから私のために



また新たに月が生まれた夜
真っ直ぐに前を向いて青年はやってきました

闇も雫も青年の瞳にはありませんでした

青年の瞳に映っているのは小さな花

小さな花の心は嬉しさで溢れました

どうかわたしを自由にしてください
二度と土に戻れなくとも構いません

小さな花は月に祈りました



それから幾度めかの新たに月が生まれた夜
月は小さな花を見つけました

力なく窓辺に揺れる小さな花

次の命を繋ぐ事もなく
朽ち果てる事もできない姿

部屋から聴こえるのは青年の優しい声
でもその声が向けられたのは
隣に佇む美しい人に

青年は優しげに微笑みました
でもその瞳が映すのは
隣に寄り添う美しい人だけ


いつまで聴き続ければよいのでしょうか
その暖かな青年の声を

いつまで見続ければいいのでしょうか
その優しげな青年の瞳を



もう土には帰れない
それが盟約…

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