ぶん
□あなただからみせられない
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近藤さんが新政府軍に自ら話をつけにいったのは一週間前のことだった。
連絡のひとつも入らず、あの土方さんでさえ、局長の命は尽きたと言い出しかねなかった。
隊内はもちろん不安な空気に包まれる。
特に総司なんて、体中から殺気を放っている。
少しでも気を緩ませたら斬られそうなほどの殺気。
もちろん、千鶴もずっと不安そうな顔で自室にこもっていた。
「どうした千鶴、局長のことが心配なのか」
「あ、斎藤さん・・・。だって・・・!ぜんぜん連絡も入らないし・・・」
新選組の隊員ではないとはいえ、しばらくひとつ屋根の下で暮らした仲だ。
心配しないわけがない。
「お前は、局長がむざむざとやられて死ぬとでも思っているのか?」
「そんなこと・・・思ってないですけど・・・」
千鶴は口を尖らせた。
「いくら近藤さんでも、ひとりで新政府軍に乗り込むなんて・・・無茶です・・・」
確かに、すばらしい剣の腕を持つ局長でも、たったひとりで敵陣に乗り込むなんて、「無茶」の一言しか言えない。
心配そうに空を仰ぐ千鶴に俺は何も言葉をかけず部屋をそっと出た。
そんなときだった。
「幹部は全員集まれ!!」
土方さんの怒号が響いた。
何か起きた、そんな予感が屯所内を駆け抜けた。
俺はそばにいた新八と顔を見合わせ、副長室へと走った。
俺たちが到着するころには、もう全ての幹部が集まっていた。
「なんなんですか、土方さん。そんなに大声を出して僕たちを呼ぶなんて」
総司はのんびりそう言うが、目はどうみても真剣そのものだった。
「お前らも予想はついてるだろうが、近藤さんがやられた」
「なっ・・・!」
総司が勢いよく立ち上がろうとする。
「がはっ・・・げほっ・・・!」
途端に咳がこぼれる。
「近藤さんは斬首された」
俺は土方さんの話を聞き終わると、まっさきに千鶴のもとへむかった。
「千鶴・・・!」
「さ、斎藤さん!?」
千鶴はびくっとしたように恐る恐る俺の方を向いた。
「いいか、落ち着いて聞け」
「近藤さんの話なら、もう聞きました」
「・・・・何故しっている」
俺は動揺を隠しきれなかった。
何故こいつが知っているのだ。
覗きでもしたのか、としか考えられなかった。
「斎藤さんの前に、沖田さんや永倉さんたちが来て教えてくれたんですよ」
二人とも・・・俺より早く行くとは・・・!
「そんなに、急いで来てくださってなんか申し訳ないですね・・・」
千鶴は困ったように笑いながらそう言った。
「・・・千鶴は悲しくないのか?」
てっきり千鶴は、その事実を知った途端に泣き崩れると思っていた。
「大丈夫ですよ、私強いですから」
「そうか・・・」
千鶴の笑顔を見て、俺はなんだか少し寂しくなりそっと千鶴の部屋を立ち去った。
すると、
総司がふと現れた。
「やぁ、一君」
「随分急いで雪村のところに行ったんだな」
「ん?あぁ、そのこと?えっとね、僕が行ったんじゃなくて千鶴ちゃんが、僕に『教えてくれ』って頼んできたんだよ?」
どういうことだ?
「千鶴ちゃんねー、近藤先生のこと教えてあげたらすごい勢いで泣き出しちゃって、困ったよ」
俺はその後の総司の話など聞かず、千鶴の部屋へと駆け込んだ。
「さ、斎藤さん!きょ、今日はどうしたんですか・・?」
千鶴は苦笑しつつも俺の話に耳を傾けた。
「何故、自分から局長の話を尋ねた?」
俺は一気に核心をつく。
千鶴は目を見開きながらも、さらっと答えた。
「だって、斎藤さんに私が泣いてるところを見せたくなかったから・・・」
だからって・・・・千鶴は、総司に聞きに行ったのか?
俺に涙を見せることを恐れて?
よく見れば、確かに目尻には涙の跡が残っていた。
「斎藤さんは・・・たぶん、私が泣いたら・・・心配すると思ったんです・・・。だから・・・余計な心配はかけちゃ悪いと思って・・・」
なんて、強い女なんだろう。
己の涙さえも我慢して、俺のために笑い続けるだなんて。
俺はこんな女に愛されたことを幸福に思うしかない。
「千鶴」
「なんですか?」
「今度からは俺の前でも遠慮なく泣け。逆に変に気を回されるほうが疲れる」
・・・・俺はたいした女に恋したものだな
涙の裏事情は俺しかしらない
@
あとがき
何が書きたかったんだろう。
もうこのころには千駄ヶ谷にいなくちゃいけない総司が出てきてしまっていろいろごめんなさい。
ただ、斎藤さんはどんなときでも千鶴にラブラブだといいんです、うふ!