ぶん

□まだまだお洗濯中なんです。
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斎藤さんは、毎日のように市内を巡察している。



最近は薩長の浪士も増え、私の新撰組内の仕事である洗濯でも、



なかなか血が落ちにくくなってきていた。





そんな中でもごしごしと洗濯をし続けて、立ち上がって少し伸びをしたときだった。







「あ、斎藤さん、お帰りですか?」





斎藤さんが庭先に立っていた。




「あれ・・・?まだ巡察の時間じゃなかったですっけ?」




いつもならば斎藤さんはこの時間に巡察に出ていて、こんな屯所にいるはずがない。



どうしたのだろう、と思って軽く首を傾げると、





「転んで水溜まりに落ちた」





そっけなく斎藤さんは答えた。







・・・・・あの斎藤さんが水溜まりに落ちる姿なんてなかなか見られるものではない。


私もみたかったなぁ・・・と思いながら、少しクスクス笑うと、
斎藤さんは明らかに不機嫌そうな顔をした。





「言っておくが、今回が初めてだ。いつも落ちているわけではない」





「そんなのわかってますよ」



それでもなおクスクス笑ってしまう私に斎藤さんは耳まで赤くする。





ここで、『あー、斎藤さん耳まで真っ赤!』とか言ったら、斎藤さんはどんな顔をするだろう、と思いながらもその言葉は胸にとどめておく。





「だっ・・・だから、服を洗濯しておいてくれ」



斎藤さんの耳がようやく元の色に戻ったころ、斎藤さんがまた何か言い出した。




「あ、はい!わかりました!」




私の返事を聞くと、斎藤さんは自室へと向かっていく。

私は洗濯物を受け取るためにも、斎藤さんの後をとことこついていく。





斎藤さんが怪訝そうな目で私のことを見ているのに気づき、


「今ちょうど洗濯してたんで、一緒に洗っちゃいますねー」


と笑顔を浮かべながら言う。



斎藤さんは溜息をつきながらも、自室に入り、部屋の襖を閉めた。
すぐに、襖が3センチほど開き、そこから斎藤さんの腕と着ていた衣服が差し出された。



私はそれを受け取ると、また洗濯をしていた庭先へと戻る。


すると、







「ま、待て!千鶴!!」






私がどぷんと水に先ほどの着物を浸けた瞬間、斎藤さんの悲痛な叫びが耳に入った。






「え?」





「お、俺の着物がもうないんだが・・・」





ふと自分の周りを見ると、ぬれたままの斎藤さんの衣服が積んである。




「・・・・残念ですが、乾いてません」



私はにっこりと微笑む。



斎藤さんはまるで悪魔の笑顔でも見たかのように、顔をひきつらせる。






「その・・・千鶴・・・悪いが、借りてきては・・・もらえんか?」




襖から顔だけだし、プルプル震える斎藤さんを見て、私は走り出す。
背格好が一番似てるのは沖田さん、としか思えない。




「沖田さーん!!沖田さぁーん!!!」


私は走りながら沖田さんの名前を叫ぶ。













結果としては沖田さんに着物を貸してはもらえたんだけど・・・。
沖田さんに「なんで千鶴ちゃんは僕の着物なんか借りるの?」と聞かれてしまい、



素直に理由を答えてしまい。





それから3日後には屯所内全体に、斎藤さんが水溜まりに落ちたという話が広まったとかそうでないとか・・・。






「聞いたよ、一君。水溜まりに落ちたんだって?」
「斎藤、意外に馬鹿なんだな」




「・・・・・総司に副長・・・今すぐ斬られたいのか?」












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