ぶん

□泣いて笑って
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斎藤さんが私をかばって羅刹になってからもう2ヶ月。

どんどん羅刹としての吸血衝動は大きくなり、血を与えることも増えた。




申し訳なさそうにする斎藤さんに対して、私のほうこそ申し訳ない気持ちになってしまう。







元はといえば、斎藤さんが羅刹になったのは私が原因なのに・・・・。







とても悲しくなる。
斎藤さんはいつもそんな私の表情を見ては、





「俺が選んだ道だ。千鶴が悪く思うことはない」



ときっぱりと言うけれども、





やっぱり、私のせいだと思わずにはいられない。
だからか、斎藤さんがちょっとでも苦しそうにしているとすぐに私は血を与えるようになってしまった。




・・・・おそらくどんどん羅刹としての進行は進んでいるんだと思う。




このままだと狂ってしまうのは時間の問題かもしれない。







私はひとり縁側に腰掛け溜息をついた。



すると、隣に斎藤さんがやってくる。





「・・・綺麗な月だな」




「ええ・・・本当に」





ちょうどそのときは満月だった。











「俺が理性を保っているうちに、満月はあと何回見られるんだろうな・・・」







斎藤さんが



はじめて弱音をこぼした。






「・・・なんてことを言うんですか!斎藤さん!」





斎藤さんが私のほうをゆっくりと振り向く。




「斎藤さんは狂いません!!私がついてます!!」





思わず涙があふれた。





斎藤さんはそんな私を見て、薄く笑いながら私の涙をふきとった。





「お前は笑っていろ。お前の笑顔がなければ、俺は今ここにはいない」







「斎藤・・・さん」






「お前はいつも、俺が羅刹となったのは自分のせいだといわんばかりに自分を責めている」




斎藤さんはまた月を見つめながら優しく語りかける。




「俺が羅刹となったのは、お前のせいではない。俺がお前を命を賭けて守りたい、と思ったからだ。
・・・極端な話、お前がどうでもよかったのならば、変若水を飲むわけがない」








武士とはいえ好きではない女に命は賭けたくない、と斎藤さんは苦笑しながらつぶやいた。






「・・・斎藤さんは私のことが大事だからこそ・・・変若水を飲んだんですか・・・・?」





私の問いに、斎藤さんは軽く頷いた。



それを見て、また涙があふれた。





「・・・なんで・・・なんで、斎藤さんはいつもひとりで何もかもを抱えてしまうんですか!?これじゃあ、私が生きている意味がないじゃないですか!!」




嗚咽混じりの声が草木に吸い込まれた。




「私は・・・自分が助かるよりも・・・斎藤さんにちょっとでも・・・長生きしてほしかったです・・・」





ぽつりと呟くと、斎藤さんはこっちをじっとみつめた。





「・・・俺の判断でお前を泣かせてしまったことは・・・謝る。だが、俺はお前に少しでも長く生きてほしかった」





はらはらと涙を流し続ける私をそっと抱き寄せる。





「・・・・俺たちがお互いが少しでも長く生きてほしいと願うのは・・お互いを愛している故だ」




斎藤さんも少し泣いているのか、肩が少しだけ上下していた。



「俺はお前よりも早く死ぬだろう。だが、それがお前を愛した結果なのならば・・・・俺は・・・」






そっと斎藤さんは自身の体から私を離した。





「俺は・・・後悔しない」




強い意志のこもった言葉だった。






たぶん、この人は自分がいざ死ぬときになっても





私のほうを見て笑顔で逝くんだろう。








「・・・絶対・・・斎藤さんは馬鹿です・・・・」






「何故そう思う」




「私みたいな弱虫のことを好きになったんだから・・・」







斎藤さんが笑顔で逝くときも、私はたぶん笑顔で彼を見送れないだろう。
それどころか、斎藤さんの死の瞬間には恐怖で目をそらしてしまいそうになると思う。








涙をこぼし続ける私を、斎藤さんは何も言わないでそっと抱きしめ続けた。









ようやく私の涙が乾いたころ、



斎藤さんは少しだけ目を潤ませて言った。





「お前はいつでも笑っていろ。・・・俺は、笑顔のお前に恋をした」








私はそんな斎藤さんに、やはり笑顔を向けられずまたも涙をこぼしてしまう。



それでも、なんとか頑張って笑顔を斎藤さんに向ける。





「・・・はい・・斎藤さん・・・」






どうみても作り笑顔なのにもかかわらず、斎藤さんは優しく微笑み、言った。





「それでいい」









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