ぶん
□あまいのはおかしなんです
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私は遠くにいる斎藤さんに向かって呼びかけた。
「斎藤さーんっっ!!こっちです!!はやくはやくっっ!!」
しばらくして人混みの中から見慣れた顔が出てきた。
「・・・そんなに急いで何をするつもりだ、千鶴?」
私は首を傾げる斎藤さん腕をがっしりつかむと、行きたかった場所へと引っ張っていく。
斎藤さんは溜息をつきながらも抵抗することはなく、私にひきずられる。
そしてしばらく歩き・・・。
『じゃん!』という効果音が似合いそうなほどの笑顔で私は目当ての場所の前に立った。
「ここです!斎藤さん!!」
「・・・甘味処・・・か」
斎藤さんは店の暖簾を見て呟く。
「沖田さんが巡察の帰りに言ってたんですよね−。すっごい美味しい甘味屋さんがあるって!!」
「・・・俺はあまり甘いものは・・・」
私は斎藤さんの言葉なんて聞かずに、さっと暖簾をくぐった。
「へぇ、いらっしゃいませ」
私は強引に席に斎藤さんを座らせる。
「・・・さぁっ!!斎藤さん何でも頼んでいいですよ!今日は私のおごりです!」
胸をばちっと叩くが、斎藤さんは興味なさげに私のほうを見た。
まさか・・・斎藤さん甘いものが嫌いなのだろうか・・・?
「あ・・・の、斎藤さん・・・もしかして・・・」
「甘いものはあまり好きではない」
私が言う前に斎藤さんがすぱっと言い切った。
私はがっくりと肩を落とす。
近藤さんや沖田さんは甘いものが大好きだから、てっきり斎藤さんも好きだと思っていた。
へこみまくっている私を見て、斎藤さんは見るに見かねたのか声をかけた。
「・・・千鶴・・・・俺は別に好きではないが・・・食べれないこともない・・・」
私は斎藤さんが気を遣ってくれているということにまた大きなショックを受けた。
「いえ・・・、勝手に連れてきた・・・私が・・・悪いんです・・・」
私は暗い顔をしながらも、あんみつを頼む。
くるんじゃなかった・・・
そう思い始めたとき、あんみつが私の元に届いた。
甘いものを見ると一瞬で嫌なことも忘れる。
「いっただきまーす!!あ、斎藤さんは・・・あの、もう帰ってもいいですよ・・・?」
私はおそるおそる斎藤さんにそう言った。
てっきり、このまま斎藤さんは帰ってしまう、と思っていた。
でも、
「いや、お前の笑顔を見ているだけで俺も楽しくなれる」
え・・・・?
「だから、お前はいつでも笑顔でいろ」
「・・・・じゃあ遠慮なく」
本当に遠慮なくあんみつにかぶりついた私を見ながら斎藤さんは苦笑しつつも
少しだけ嬉しそうな顔を浮かべた。
恋の味はいかがですか?