「あーもうー! 悔しい悔しいくやしいっスー!」
「うるさいのだよ黄瀬」



部活後の帰路。
緑間は、自分の隣でギャーギャーと叫んでカバンを振り回す黄瀬の顔面に本日のラッキーアイテム(手の平サイズの水晶玉)を投げ付けた。勿論軽めに、だ。投げつけた後、それを落とさずにキャッチするのが緑間らしい。



「痛い!」と黄瀬が声を上げ、ぶつけられた箇所を押さえながら恨めしげに緑間を睨む。



「何するんスかー」
「うるさいと言ったのが聞こえなかったのか? 全く、人の迷惑を考えずピーチクパーチク…もう少し静かにしてほしいのだよ」
「だって悔しいんスもん!」



たった今「静かにしろ」と言われたにもかかわらず、黄瀬は再び声を荒げた。最早黄瀬からは人の言うことを聞ける余裕など消え失せてしまっているようである。


緑間の口から溜め息が漏れる。この溜め息の中には、呆れと諦めが半々に混ざっているに違いない。



「なんなんすか青峰っちのあの強さは! 異常っスよ異常! 正直羨ましいけどやっぱり悔しい〜!」
「いちいち騒ぐな。青峰が強いなど今更過ぎる愚問だろう。それに…」



クイッとメガネのブリッジを上げ、緑間は二の句を告げる。




「たとえ青峰があれほどの実力者でなくとも、バスケを始めたばかりのお前で相手になるはずがないのだよ」
「そ、そうかもしれないっスけど…」




言葉に詰まる黄瀬。
緑間の言うことは尤もだと思う。自分がどれだけ馬鹿なのだとしても、そのくらいは理解出来る。






青峰は強い。あのバスケの天才的センスは、彼がこれまでバスケに情熱を注ぎ続けたことの賜物だろう。彼がどれほどバスケが好きなのかなんて愚問過ぎるし、自分の
前で見せたあの笑顔からでも伝わってくるというものだ。



そんな彼に、まだバスケを始めたばかりの――素人同然の自分が勝てるはずもないことなど、黄瀬は重々承知している。今の自分の実力は、彼の足元にも及ばないことは痛いほど理解している。




理解はしている、のだけれど…。





「悔しいもんは悔しいっスよ」



今まであまり『負ける』ということを体験してこなかったせいだろうか…今のように『やられっ放し』なのは性に合わない。


いつか負かしてやりたいと気持ちばかりが募り、早く追い越そうと焦り…結果、それがなかなか実を結ばず悔しい悔しいと咆哮するしかないのである(そして緑間に怒られる)。



「悔しいのは結構だが…これ以上騒ぐようなら、今度は顔面にぶつけるからな」
「うぅ…緑間っちが冷たい…」



黄瀬の騒がしさに苛々がピークに達している緑間ならば本当にあの水晶玉を顔面にぶつけてきそうだ(しかも全力で)。もしそれが実行されたら鼻血ぐらいは出るかもだし、最悪歯が折れるかもしれない(どれだけ緑間の力を過信しているのだろうか)。そうなるのは勘弁…と、黄瀬はようやく騒ぐのを止めて肩を落とした。胸の内で、悔しさはまだもやもやと燻っているが、それを吐き出すのは明日にしよう。青峰にまた相手をしてもらって、ワンゴールぐらい奪ってやろうか。



出来もしないことを考えつつ、黄瀬は「覚悟しとけっスー!」と夕日に向かって叫んだ。その直後に水晶玉がぶつけられたのは言わずもがな…である。


















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嫉妬にも似た羨み
the GazettE/ Crucify Sorrow

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