「アンタを、抱きたい」








本来なら、断らなければならなかったのだろう申し出。俺とアイツの立場を考えれば、是が非でも、押し返さなければならなかった、アイツの言霊。叱りつけてでも殴ってでも、止めなければならなかったアイツの願望。



そう。頭では、しっかりと理解して解析して答えを導き出すことが出来るのに。





今の状況は。




導き出された答えとは、正反対と言い切って良いものだ。







「は…ナメろっ…」
「綺麗だな、アンタは」
「っ…」




誰も居ない放課後の教室で、愛を確かめ合う二人――なんて、なんてベタ過ぎるシチュエーションなんだろう。しかしながら、思春期真っ只中のガキは、こういうベタな状況にも燃えるものらしい。



俺の身体を這い回るコイツの舌もその熱に浮かされているのだろうか、やけにアツい。俺の口から漏れる吐息も…アツい。




容赦なく俺の我慢やプライドを取り去っていくコイツの愛撫に、俺はただただ翻弄されて、鳴かされて。今まで感じたことすらなかった羞恥心すら込み上げてきて、だけど何故か嫌だと思えなくて。




「ふっ、あ…!」
「ココ、オレが初めてなんだ?」
「んなの、当たり前だろ……んっ」



コイツが与えてくれている物なら拒絶する気も湧かない。俺はただ従順に刺激と熱を受け入れて。



「あっ…! ナ、メ郎…ナメ郎…!」




ただ――名前を呼んで、求めた。













一教師である俺、破天荒と一生徒であるコイツ、ナメ郎とが恋人同士になったのは二ヶ月程前のこと。どういうわけか俺に一目惚れしたというコイツの隙のないアプローチに俺が根負けした形で、俺達は恋人同士という間柄に落ち着いた。




二ヶ月間、俺達はとても清いお付き合いだった。朝は誰にも会わない時間帯を選んで登校し、昼休みは一緒に昼食を取り、放課後は時間さえ合えば共に帰宅し、ナメ郎を家まで送ったら、キスをして別れる。…今までの俺からすれば考えられない程に、清いお付き合いだ(今まで女をとっかえひっかえしてたからな)(何人の女を泣かせたか…なんて、覚えてねぇな)。



今日も、そんな日々の繰り返しの一つになるのだと…そう、思っていた。




だけどそうじゃなかった。今日という日は――今までの繰り返しを瓦解させる、運命の日だったのだ。





珍しくナメ郎から職員室に迎えに来たかと思えば強引に牽引され、連れてこられたのはコイツのクラスの教室。放課後になってから大幅に時間が経過していたので、当然ながら俺とナメ郎以外に人は居ない。連れられた理由も分からぬまま、夕闇に染まるここで唐突に言われたのが、冒頭のセリフだ。







「アンタを、抱きたい」








本来なら、断らなければならなかったのだろう申し出。だけど俺は――断らなかった。








「――っあ、ぁ!」
「はっ…悪い、痛いか…?」
「っいい、から……あ、は、早く…!」
「…ホント、アンタは煽んのが上手いよな」





押し入ってきたナメ郎の熱の塊。初めての感覚に、確かに不快感はあった。痛みだって、想像してたより酷いものだった。俺の瞳からひっきりなしに溢れてくる涙がその証拠だ。



気持ち悪い、苦しい、痛い、熱い。





けど…その全部を含めて、感じるものがあった。






心を満たす幸福感とか。


一つになれた満悦感とか。


ナメ郎に対する愛情とか。





女遊びが激しかった頃に経験することの出来なかった想いばかりが体を駆け巡っていく。相変わらず痛みは続いてるし涙も途切れないのに――俺は、紛れもなく、幸せだった。




「センセー…好きだ」
「ふっあっあ…!」
「好き…――愛してる、破天荒」




切羽詰まったナメ郎の声。限界が近いのだろう、腰の動きが性急になっている。
早さの増した律動に、もう恥じらいもプライドも剥がれ落ちた俺は鳴いて鳴いて、ナメ郎にしがみつくしか出来なくて。







二十五歳にもなって、まさか十六歳の子供にバックを掘られるとは思っていなかったけれど…。




コイツに囁かれる言葉を聞いていたら、そんなことはどうでもよく思えてしまう。





ただただ、今与えてくれる熱に、痛みに、言葉に、愛に―――俺は間違いなく酔っている。





どうしようもないくらいの深みにハマって――溺れてしまっている。






「ナメ郎っ…」
「センセー…」




手放したくない。この愛を。これが間違った関係なのだと分かっていても。これから先、どんな受難が待ち構えていようとも。






「愛してる…ナメ郎」





もう――止まることなんて、出来ない。





















――――
理解ってるのに止まらぬが恋
the GazettE/貴女ノ為ノ此ノ命。

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