自分の思っていることを音に乗せるのって、実は凄く勇気がいることなんだなって俺は気付いた。




今だってそうだ。


言いたいことは胸の中では決まっているのに、それを本人に告げる勇気が出なくて、最初の一歩が踏み出せない。




言葉にすれば一瞬で終わるのに…その言葉を口にすることが躊躇われる。





俺の一言で、今までの関係が瓦解してしまうのが怖い――





俺の視線の先には破天荒。何時ものように首領パッチと一緒にバカ笑いして変なハジケを披露して――普段と変わったところなんて一つもない。




変わったのは多分、俺の態度だけ。破天荒が不審に思ってるかどうかなんて、この際些細な問題だ。







本当は、早く言って楽になりたい。だけど…それによってもたらされる結果のことを思案すると、なかなか言い出せない。今まで築き上げてきたものが無くなるのが、俺は怖い。





だけど、いつまでもグズグズしている訳にもいかない。言うのが遅くなれば遅くなるだけ、待ち構えている未来は違う形を創造するだろうから。




大きな深呼吸を一つして、俺は無い勇気を絞り出して破天荒にゆっくりと近付いて行った。






「は、破天荒」
「あ? なんだよ」




俺が呼び掛けると破天荒は訝しげに振り返った。そこに居るのはやっぱりいつも通りの破天荒だ。


さぁ、後は胸中で暖めた言葉を吐き出すだけだ。気をしっかり持て、俺。




「あ、あの、さ…は、話があるんだけど…」
「話し? なんだよ一体」
「えっと、その…」




緊張で嫌な汗が背中を伝う。口の中がカラカラに渇いて舌が上手く回ってくれない。変に言葉がどもってしまって、破天荒に変に思われたかもしれない。




「…話しにくい内容なら、場所変えるか?」
「いっいいよ! 大丈夫だから!」




破天荒の申し出を即答で断った俺。変な気を使わせてしまった…でも、今悪戯に場所を変えられると更に切り出しにくくなる。今破天荒と二人っきりになるのは、後のことを考えると嫌だ。




「あ、のさ…」
「おぉ」
「ずっと、言おうと思ってたんだけど…」
「おぉ」
「あのね…」




ああああ気まずい! 気まずいけど言わないわけにはいかない! 言えばとりあえずこんな無駄な緊張は取り払われるんだ! 頑張れ俺。



「あのね…」





そして俺は、とうとう胸中で燻っていた言葉を吐き出した。






















「ズボンのチャック、開いてる…」
「!!!!????」











――――
言葉にするのが臆病で
アンティック-珈琲店-/校廻〜koukai〜




→そんなオチかよ、とかは無しで(^ω^)

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