(…あ、先輩だ)




授業中。何気なく窓の外に目をやると、体育着に身を包んだ水戸部先輩を見付けた。授業内容はサッカーらしく、先輩は他の人達と一緒にボールを追い掛けている。たまに見える横顔は、バスケをしている時のように真剣だった。





さすがバスケ部のレギュラーというかなんとうか、他の人に比べれば動きのキレが良い。あっという間にボールを相手からボールを奪ってそのままゴールを目指す。相手の包囲網を潜り抜け、先輩が蹴ったボールは綺麗な弧を画いてゴールへと収まった。






(すげぇ…)






先輩のバスケの実力は認めているが、別の種目を楽々とこなす様を見ると素直に感嘆する。オレもそこそここなせるが、実際にやってみて彼のようにプレイ出来るかどうかと聞かれたら言葉に詰まる。





試合終了のホイッスルが鳴り響いた。どうやら水戸部先輩のチームが勝ったらしく、チームメイトらしき人達と喜びあい手を合わせている。背後から小金井先輩が飛び付いて(つか居たのか←酷い)何か言っている。距離があるので聞こえないが、水戸部先輩は照れくさそうに小金井先輩に笑いかけている。








その笑顔は、オレの前では見せたことのない表情で――








(なんか…モヤモヤする)






なんとなく、嫌だと思った。


でも、どうして嫌だと思ったのか分からない。







未だ楽しそうに小金井先輩と話す水戸部先輩(まぁ水戸部先輩は喋らないが)を見つめたまま、授業もそっちのけてオレはこの意味の分からないモヤモヤについて無い思考を巡らせるのだった。









「……バカもここまでくると呆れますね」






後ろで黒子がポツリと呟いたのを、オレは知らない。










――――
僕の知らない君
シド/紫陽花

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