瑠樺さんが好きなのは咲人だって、ずっと前から知ってる。
それを知ってて、おれは瑠樺さんと付き合ってる。
「咲人の代わりで良いから」
そう瑠樺さんに取り入って、おれ達は恋人同士になった。
瑠樺さんの意識におれが居ないのは分かってる。おれが眼中に入ってないのは分かってる。分かっているけど、おれはそれでも良かった。瑠樺さんの側に居られるのなら、なんだって良かった。
「新弥は本当にそれで良いの? 心から愛してもらえないのに…それで、新弥は辛くないの?」
柩は全ての事情を知っている。瑠樺さんが咲人を好きなのも、おれがそれを承知で付き合っていることも。
それを知っているから、柩はおれを凄く心配してくれている。報われない想いを抱いて、受け入れられる可能性が限りなく零な情を持って側で過ごすのは、酷なんじゃないかって。柩は優しいから。
全てを柩に話した時、柩にそう問われたことがあった。あの時のおれは、こう即答した。
「おれは、幸せだよ」
この言葉に嘘はない。おれは瑠樺さんの側に居られるのが凄く幸せなことだと思ってるし、今の関係はおれが望んだこと。瑠樺さんはそれを受け入れてくれたんだ。
これが幸福じゃないなら、何を幸福って言うんだよ。
「瑠樺さんの心がおれに無くったって良いんだ。おれが瑠樺さんのこと大好きなのは変わらない。これから一生瑠樺さんがおれを愛してくれなくても、おれが瑠樺さんを愛してるって気持ちを忘れなきゃ、それで良いんだ」
「新弥…」
「おれは瑠樺さんが好き。誰よりも愛してる。きっとこれからも、この気持ちは変わらない」
『お前のことは、愛せねぇぞ』
付き合ってはやるけど、心からお前を好きって言ってやれないから。
付き合ってくれることを了承する時、瑠樺さんはそう言っていた。その言葉通り、瑠樺さんは何度もおれに「好き」って囁いてくれるけど、それには心が欠けている。ただの空っぽな言葉でしかない。ただ空気が震えて、耳に届くだけ。
だけどおれは、それでも良い。
「新弥、帰っぞ」
「はい!」
咲人への想いは変わらない筈なのに、こうしておれを優先してくれているのが堪らなく嬉しい。どんな時もおれを誘ってくれて、側に置いてくれるのが嬉しい。繋がる手から伝わってくる体温が、とても優しくて。
「瑠樺さん、好きだよ」
「……俺も、好きだ」
例え上辺だけの言葉でも。
今のおれにとっては、この無意味な関係を忘れさせてくれる、魔法の言葉。
――――
うわべだけの「カンケイ」
ナイトメア/13th