火神君と歩く部活後の帰路。火神君と付き合い始めてから、僕はこの時間が一番楽しいと思えるようになった。日の出ている間は堂々と繋げない手をギュッと繋いで、火神君が話す内容に耳を傾けて、返事をして、ゆっくりと歩を進める。



僕より大きな火神君の手の平。火神君と比較してしまえば明らかに小さな僕の手を包むように繋がる互いの手。そこから伝わってくる体温が心地好くて、離してしまうのが惜しいと思ってしまう。ずっとこのまま…お互いがお互いの手を握って体温を分け合って、そして手が同化してしまって、一生離れなくなってしまえばいいのに…。そう思った事も少なくない。




もうすぐ、別れ道に達する。忌まわしき別れ道。そこに着いてしまえば、この手を――火神君の手を、離さなきゃいけない。本当はもっともっと一緒に居たい。この手を繋いだまま、まだまだ二人で居たい。


だけど、そういう願望は現実では叶わなくて。




「じゃあな黒子。また明日」



当然のように離されてしまった手に、焦がれる素振りを見せないように。




「はい。また明日」



何時ものようにポーカーフェイスを装って…寂しいけれど、火神君に背を向けて、己の家路を辿る。また明日、その体温を感じられるのを期待して、何時ものように家に帰る。――その筈だったのだけれど。




「っ…?」



急に強い力に引き戻されて、顔を引き寄せられたと思ったら、視界は火神君に占領されていて。声を上げる間も無く塞がれた唇。伝わってくる温もりは紛れもなく火神君のもので。

キスされている…そう気付くのに少々の時間を要した。




角度を変えて、啄むように火神君は何度も僕の唇を貪った。触れるだけのキスを何度も何度も繰り返して、ようやく火神君は僕を解放してくれた。息継ぎのタイミングを逃していた僕は足りなかった酸素を補うように荒い呼吸を繰り返す。きっと今の僕の顔は恥ずかしいぐらいに赤くなっているに違いない。

目を合わさないように俯いていた僕だったけれど、火神君に顎を掴まれて無理矢理視線を上げさせられた。

目の前の火神君は、不敵に笑っていた。




「そんな寂しそうな顔してんじゃねーよ」
「え…」



発せられた言葉に僕は目を丸くした。どうして、と思った。バレていない筈なのに…と。


すると、よっぽど僕は驚いた表情をしていたのだろう、フッと笑って顎を掴んでいた指を離して、そのままグシャグシャと強めに髪を撫でられた。




「な、なにするんですか」
「うっせぇ。オレが知らねぇとでも思ってたのか?」
「…バレてないと思ってました」



バレないように、上手く隠していたつもりだったから。



「バーカ。確かに顔はいつも通りだったけど――目の奥は、いっつも寂しそうだったんだよ」



オレを甘く見んな、と言われてデコピンされた。痛い。




「寂しいんならそう言えよ。遠慮なんかすんなよ。オレ達、その…付き合ってんだからよ」
「火神君…」




良いんですか? 甘えてしまっても。

寂しいって我が侭言っても、困りませんか?

離れたくないって縋れば、抱き締めてくれるんですか?




「火神君…あの…」
「なんだよ」



言い淀んでしまう。言葉が上手く出てきてくれない。今まで我慢していた分、気持ちがどんどん零れていってしまう。ただ思っていることを言えば良いだけなのに。




「離れたくないんです…火神君と、ずっと一緒に居たいんです」




出てきたのは、たった此れだけだった。でも、伝えたいことも、たった此れだけ。




「はん、上出来」



火神君は、此れだけで全てを理解してくれた。抱き締めてくれた火神君の腕の中はやっぱり温かくて…さっきまで胸中で燻っていた寂しさが嘘だったかのように、融かされていくような気がした。













――――
さよならの前の急展開
シド/キャラメル

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