鳥籠に繋がれたキミは、とても美しかった―――
僕は黄瀬君を好きになった。
黄瀬君も僕を好きになってくれた。
両想いで。恋人同士になって。
僕らは確かに、幸せだった。
だけど、同じ時間を過ごしていくうちに、僕は己の中に秘められていた醜さに気付くことになった。
彼に近付く女の子達がとても憎かった。
(僕の黄瀬君に色目を使うな!)
彼に話し掛けるチームメイトがとても憎かった。
(僕の黄瀬君に話し掛けるな!)
彼に近付く全ての存在がとても憎かった。
(僕の黄瀬君に近付くな!)
そしてなにより。
誰彼構わずあの可愛い笑顔を振り撒いて、警戒心を持たずに軽々しく抱擁を交わす、黄瀬君の行動が一番許せなくて、一番憎かった。
(やめてやめてやめて! 誰かに愛想を振り撒かないで誰かになつかないで僕から離れないで! 君は僕のものでしょうそうでしょうねぇねぇねぇ!)
胸の内で己の黒き感情が震えた。心が憎しみで歪んでいく。言い様のない感覚で体を何かが蹂躙していく。黄瀬君に近付く全ての存在が妬ましくて仕方無くて、ドロドロと僕の心を溶かしていく。
妬み。
嫉み。
憎しみ。
醜い僕は、黄瀬君を独り占めしてしまいたかった。
だから。
僕は、黄瀬君を鳥籠に閉じ込めた。誰の目にも触れさせないように。誰の手も届かない場所に。僕以外の誰の声も聞こえない密かな空間に。
「黒子っち…」
「黄瀬君。僕は君を愛してます。この世界の誰よりも、僕は君を愛してます」
「うん。オレも愛してるっスよ。他の誰より、ずっとずっと愛してる…」
鎖に繋がれた腕を伸ばして僕に触れてくる彼がとても愛しくて、苦しくなる程に愛しくて。
「黒子っち…」
交わした口付けは、これまでしてきたものと比べ物にならない程に甘くて、冷たいものだった――
―――黄瀬君は渡さない。黄瀬君はずっとずっと、僕のもの……。
――――
愛した故に芽生えた悪の花
ナイトメア/the WORLD