進撃の巨人
□Mein Licht
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―Mein Licht―【前編】
雨の降る日、路地裏、少女。
あのガキは、俺の痣だらけの手をそっと掴んだ。
その小さな指先の暖かさが、ひどく心地よかったのを覚えている。
「うわ、珍しい…」
「きっと疲れてるのよ…」
どこか遠くで声がした。
次第に意識が覚醒し、やがてぱっと目を開けると自分を囲む見慣れた兵士達。
彼らは揃って「まずい」と顔を青くさせた。
自然と眉間に皺が寄るのが自分でもわかった。
「おい、おまえら…」
「すっすみませんでしたぁ!!」
蜘蛛の子を散らしたように一斉にその場から逃げ出した、翼の描かれた背中。
それを睨みつけることで完全に追い払い、そして腰かけていた椅子の背もたれに再びもたれかかる。
こんな兵士達の出入りの激しい公共の場で、しかも固い椅子の上でうたた寝をした挙句。
「何年前の夢を見てんだ、俺は…」
自分がまだ兵団に来る前の、路地裏で迷子になっていた少女を見つけたときの夢。
未だ鮮明に脳裏に焼き付いていた。
ウォール・シーナ内、街外れのとある平地。
そこに質素ながらも大きな屋敷が一軒、こじんまりと建っていた。
屋敷の主は貴族の名前を捨てたがっていることで、周囲の貴族達から忌み嫌われている。
そして調査兵団に資金提供をする変わり者としても有名だった。
「それが、末の娘が良く働くもので困っているんですよ」
屋敷の応接室には、その主である男ともう一人。
「貴殿がそう教育してきたと、何度もおっしゃっていたではないですか」
「はは、君もそんなことをよく覚えていたね」
執事もメイドもいないこの屋敷にいるのは、今や主とその娘達だけだ。
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