居候シリーズ
□柳さん家の居候
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【神に愛されるヒト】
―柳視点―――
早朝、日が昇る少し前。
自室の戸を開ける音がした。
(いつもより…早いな)
その部屋の主である柳蓮二は、瞳を閉じたまま意識を戸に集中させた。
開けた人物が誰なのかは、既にわかっている。
込み上げてくる笑みを顔に出さないよう十分に注意しながら、寝たフリを続行した。
やがて戸を開けたであろう人物は、そろりと柳の寝ている布団の前まで来るとそっと畳に膝を着いた。
そして僅かに出ている肩に、手が置かれた。
「蓮…」
儚い小さな声だった。
もう一度聞きたくて、寝たフリを続ける。
今度は軽く肩を揺すられた。
「起きて…?」
流石に、起きてやるか。
そっと身体を天井に向け、ゆっくりと開眼して見せた。
不安そうだった彼女の顔が、綻んだ。
「おはよう、朝だよ」
「ああ…おはよう」
桃色の浴衣に流れる、漆黒の長い髪。
やや不健康にも見える白い肌に、淡い色の瞳。
彼女は、この柳家に居候する梶原時雨。
俺の、想い人であったりもする。
…§…
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