君はMorpho

□君はMorpho.T
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第1話 転校生






僅かに開いたベランダの戸の間から、春らしい暖かな風が入ってくる。

その風を頬に受けながら彼女、中岡リオはソファの背もたれに座りテレビを眺めていた。



『さぁ、日本の頂点に立つのはどちらのペアか!?』



少々熱の入りすぎた実況に苦笑いしつつ、リオはソファに座っている青年に問いかけた。



「なつかしいね。どうしたの? 去年の試合のビデオでしょ?」

「ああ。なんとなく見たくなってさ。…今年と来年は出れねぇな〜と思って」



彼は楽しそうにそう答えた。


彼はリオの2つ年上の兄で、名前をレオといった。



「お兄ちゃん、シングルスで出ればいいじゃないの? 前みたいに」

「それ、コーチにも言われた。今考え中。」

「そう…」



会話が途切れリオは再びテレビ画面に視線を向けた。

そこには、自分と兄のレオの姿が映っている。

2人とも色違いのテニスラケットを持って。



画面の2人が立っているそこは、テニスコートの上。

2人は隣り合っていて、目の前に立つ男女を見据えている。


リオとレオ。


2人は兄妹にしてミクスドを組んでいた。

そして昨年の春の終わり頃、全日本ジュニア大会・中学生の部で決勝戦まで進んだ。


その時の中継ビデオを、レオはこんな早朝から眺めていたのだ。



「つか、リオ〜。おまえ学校行かなくていいのか? 転校生が遅刻はまずいだろー」

「…やだ、こんな時間っ」



リオは時計を見るなり、鞄を引っつかんで「いってきます」と叫ぶように言ってから部屋を飛び出した。



「お〜、行ってこい」



レオはテレビから視線を外すことなくそう告げると、ソファにもたれかかった。

そして『優勝は中岡兄妹だーーー!!』という実況者の声を聞きながら、睡魔に抗うことなく瞳を閉じた。






―リオ視点―――

私達の両親は海外で暮らしている。

2人ともスポーツが好きで、よく私達子どもにいろいろとやらせていた。

中でもテニスは私も兄も得意で、日本でそこそこ強いチームに入りジュニア大会で優勝した。

当時はそれなりにテレビで騒がれていたし、その後すぐにアメリカに飛んで試合もした。


けれど、今年は私が中学生で兄が高校生。

あと2年経たなければ次の高校生の部には出場できない。







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