君はMorpho
□君はMorpho.―Parallel the Deciding match―
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序章 銀の光
降り注ぐ冷たい雨が痛い。
それよりも、走り続けていた為か喉が焼けるように痛い。
目の前を走る彼に手を引かれ、走り続けて数時間。
何故、こんなことになってしまったのだろう。
今更後悔しても遅いのはよくわかっているけれど。
闇に包まれた今、辺りに低く響くのはビッグベンの鐘の音。
それを聞いてか、私の手首を掴む彼の手に力が込もる。
「もう少しだ…!」
彼が僅かに振り返ってそう言った。
しかしその目が見開かれたことに気が付いて、追っ手がすぐそこまで来ていることを悟る。
それと同時に顔のすぐ横を、テニスボールが擦り抜けて行った。
狙われていたのは私ではない。
間違いなく彼、だ。
「…っは」
詰めていた息を吐くと同時に、彼の腕に抱き込まれた。
左手中指に銀色の指輪が光るのが見えた。
そして、残されていた僅かな体力が限界を迎えようとしている。
もう逃げられない。
「はっ、はぁ…っ」
目の前の彼もそれはわかっているようで、足を止めるとすっと背を伸ばす。
同時に、風を切るような音と共に暗闇からボールが現れた。
彼が手にしていたラケットでとっさに受け止めたが、その威力は凄まじく。
傷だらけだった彼の身体は簡単に弾かれてしまった。
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