ChiaRoscuRo

□真実と虚構の狭間で
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あの娘は、一体どこまで本気なのだろうか。


刺すような冷気の中、ちらちらと舞い始めた牡丹雪を眺めながら、彼はぼんやりと考えていた。


彼女は、まるで「偶然」をそのまま人間にしたような存在だった。
この世界の未来を知っている彼女が「偶然」この世界に迷い込み、「偶然」暁に拾われるなど、あり得る事だろうか。それも恐らく、並の人間を遥かに凌ぐ図太さと適応力を持つ彼女が、「偶然」



まるでそれは、必然ではないか?

すべからく偶然は、必然的に発生する。彼女が我々の前に現れたのが必然だとすれば、それは何のためだろうか。彼女は本当に「迷い込んだ」のか?



「しかしあの小娘が、何かを企んでいるとも考えにくい」

吐き出すような独り言は、窓ガラスを白く曇らせる。部屋の中も随分冷えるが、彼はさして気にしてはいないようだった。

彼女は−−名前は、彼の目から見て、未だ敵と断言出来る存在ではなかった。ただ自分を避け、嫌ってはいるが、それだけ。むしろ暁全体に対しては友好的であり、同士と呼ぶには拙いが、仲間と称するには何ら違和感は無い。


「さて……信頼に足る人物か」

それはこれから、彼が見定めていかなければならない事だった。
それに、仮に名前が暁に忠誠を誓う覚悟があるとして、恐らく彼女は−−



「トビ」

自分を呼ぶ声に、彼は振り返った。地面からひょこりと顔を出すゼツが、小首を傾げて彼を見ていた。


「名前が呼んでたよ。なんか、お好み焼きパーティするけどトビくんもどうですか!だって」


はあ、と、溜め息をひとつ。


「行くの?」

「どうせあちらに用がある」


彼は外していた仮面を手に取り、いつものように装着して顔を隠した。彼の素顔を知るものは、ほんの僅かしかいない。彼女は−−恐らく、知らない。彼女は、彼が「うちはマダラ」であると、そう思い込んでいる。

彼女の知る「真実」には、誤りがある。


「ついでだ。名前にも会いに行ってやろう」

「ねートビって、案外名前の事気に入ってる?」

「まさか」

彼は、仮面の下で薄く笑った。

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