ChiaRoscuRo
□雪の日
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「あっ!」
少し固めのソファに座って本を読んでいたら、窓の外にある発見をして、私は短い声をあげた。
「見て見て、イタチ兄さん!」
「ああそうだな」
「見ろや」
チラとも見ずに生返事をした彼に、鋭くつっこむ。
「ほら、雪!」
私のこの一言で、イタチ兄さんはようやく視線を窓に向けた。
鉛色の空からちらちらと、牡丹雪が舞い落ちていた。
「……積もらないかなぁ」
「積もって欲しいのか?」
「欲しいですよー。だってイタチ兄さんと一緒に雪合戦出来るじゃないデスか!」
「……俺はしないぞ」
「えー!!」
「デイダラか飛段に付き合ってもらえ」
兄さんとが良いんデスよー!と呟いて、私はイタチ兄さんの、サラサラ綺麗な後ろ髪をいじり始める。
鬱陶しくて堪らないのか、イタチ兄さんはため息をつくとソファから立ち上がった。
「あれー?イタチ兄さんどこ行くんデスか?」
「部屋に戻る」
「ついてって良いデスかー?」
「…………」
「駄目だと言えない優しい兄さん」
「駄目だ」
「ええー!」
ぶちぶちと抗議しながら、私はちゃっかりイタチ兄さんの後をついて行く。
「いっぱい積もったらダルマさん作りましょう。紅い実で目を付けてシワを書き込めば、ハイ!イタチ兄さんの完成です!」
「……シワは必須か」
「必須ですねー残念ながら」
そしてイタチ兄さんの部屋の前まで来て、私は一応立ち止まった。
「………入って良いんデスか」
「入る気満々だったろう?」
「マジで良いんデスか!?やっほーい!イタチ兄さんの自室!」
私はまさに飛び上がって喜ぶと、さっさと部屋に入り込んでしまった。
その後、続いてイタチ兄さんが部屋に入る。
「へぇー、綺麗なお部屋ですねぇ……」
「何も無いだけだ」
ぐるりと見回すと、本当に質素な部屋だ。確かに必要最低限の物しか置いておらず、綺麗というより何も無いという方が正しいようだ。
「……………あ、」
「何だ?」
「いえ、何でも無いです。それよりイタチ兄さん、お茶か何か出ないんデスか?名前ちゃん、寒くて堪りません」
「……お前はもう少し、遠慮を覚えるべきだと思うぞ」
そんな事言いながらもイタチ兄さんは、お湯を沸かしに台所へ行く。
その隙に私は、先程部屋の隅に見つけた、半透明のうちはの方を追い払っておいた。追い払うと言っても、出来るだけ失礼のないように。やんわりと。
「……憑くなら、木の葉の上層部の方に憑いて下さいよね」
そうは言っても死者の声が生者に届かないように、生者の声もまた、死者に届く事などない。
まあ取り敢えず、この場合はこうしておいて間違いはないだろう。
詮無い事ではあるけれど。
「………誰と話してたんだ?」
「ほあっ!?イタチ兄さん気配無いデスよ!?」
「お前が鈍過ぎるだけだ」
いつから聞いてたんだろう。全部かな。
何時の間にか背後に居たイタチ兄さんは、いつもと同じ無表情で、湯飲みを差し出す。
それをありがたく受け取って、私はお茶を一口すすった。
しばし、沈黙。
「…………また、幽霊か?」
イタチ兄さんは、私の方を見ずに言う。
「幽霊って言うとチンケに聞こえますが、まあそうデスね」
「……………沢山いるのだろうな」
「そりゃもう、桁外れに多いですよここは。でも、仕方無いでしょう?」
「何がだ?」
「イタチ兄さんの場合、は」
「……………」
イタチ兄さんは、思いつめた様な顔をしている。
何だか、私の前ではいつもこんな顔をしてるな。この人は。
……私が余計な事を言い過ぎているんだろうか。
思いがけず気まずい雰囲気となってしまった部屋の中、しばらくして、イタチ兄さんの小さな呟きが響いた。
「………雪、」
その言葉につられて、窓の外を見る。
黒い窓枠に白い雪が、うっすらと積もっていた。
(雪は午後には雨に変わって、流れて消えた)
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夢主の霊感設定、たまに忘れます。