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□左手に愛を、右手に君を。
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「いっちゃん! 私と付き合おう!」
「……あや、邪魔するなら帰れ」

55回目の告白は見事55回目の敗北となった。涼しい顔でテストの丸つけを続けるいっちゃんの顔を見ながら、私はこれ見よがしに頬を膨らませる。
人が告白しているのに照れることも動揺することもないいっちゃんの横顔を、私は唇を尖らせて睨んだ。……くそぅ。いつ見てもカッコいいな。
だけど全然私を見てくれないいっちゃんに虚しくなって睨むのを止めれば、隣からため息が聞こえた。顔を上げれば眼鏡をかけたいっちゃんと目が合う。

「することないなら帰れば?」
「いっちゃんは?」

もしかしたら一緒に帰れるかも、なんて淡い期待を持って聞いたら「仕事が残ってんの」と言って机の上のプリントの山を指差した。
いっちゃんがわざわざそう言うってことは私と帰るつもりはまったくないってこと。その証拠に、いっちゃんの視線はすぐに目の前の答案用紙に戻った。

「……帰る」
「気を付けてな」

本当は待っていたいけどいっちゃんを困らせたいわけじゃないから、私は渋々鞄を手に取った。いっちゃんは目の前の答案用紙から目線を上げようともしない。
今日もいっちゃんは意地悪大魔人だった。重い足を引きずるようにして出口に向かえば「あや、」いっちゃんの手が私の手首を捕らえる。

「外暗いから近道しないで大通りから帰れよ」

ささやかな気遣いに、私は何度も頷いてから教科室を飛び出した。顔が赤いのが自分でも分かる。
いっちゃんにとっては何気ない一言かもしれない。その一言がどれだけ私の心をかき乱してるのか、いっちゃんは知らないんだ。
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