Dream

夏が、始まる
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もしもーし!!

オレオレ、……って、オレオレ詐欺じゃねーよ!

田島だって!!



あ?
携帯に名前出るから分かってたって?
んだよー、お前、オレん事からかってるだろ!?

ハハッ、…まーそん事は置いといて、



え?右手首?
あー……ゲンミツに大丈夫っ!
これからの夏大もオレ、すっげーカツヤクすんもんね!!

またお前も応援に来てくれんだろ?


だったらゲンミツに勝つよ!




あり?お前、もしかして寝てた?

だって声が眠そーだし。



明日のオレらの試合が平日で、応援行けなくて心配だから眠れない!?

バカだなぁ〜、オレらがんな早く負けるワケないじゃん!


オレだけには、バカって言われたくないって?

ハハハッ!…ワリィ、ワリィ。
あんまし怒んなってば。



何でオレがこんな夜中に電話したかって?


そりゃ………、


お前の声が聞きたかったからに決まってんじゃん!!

お前は?





オレの声聞けて、嬉しい?




……え?

今、会いたい…って?

会いに行っていいって?





ゲンミツに嬉しいけど………



んー……ちょっとそりゃ、無理な相談かもな。







だってオレ、










もう、




お前ん家の前に来てるもんよ。









だって、どーしてもお前に会いたかったから!!

オレに会いたいとか、あんま可愛い事言ってっと、オレ、ゲンミツに我慢出来ねーよ!


だーかーらっ、

……へへ、来ちった。






!!!
んな叫んで驚くなって。

家の人が起きるだろ?




は!?
外が寒いって?
マフラーだの、手袋だの………。
お前、マジで寝惚けてない?

だって今、夏だぜ夏!

暑ぃのはこれからだっての。


もー、お前ってばゲンミツに可愛いっ!!!
後で、ぎゅーってさせてな?


わー!!バカバカ!!!
携帯切んなって!










ほら、窓、開けてみ?







丁度見えるトコにいっからさ。















私は田島の声に導かれて、


窓を押し開けた。







長い時間、閉ざされていた窓は固く、力を込める度に軋む。


ベッドに放り出した携帯が床に落ちたが、その音すら私の耳には届かない。


ただ、

一心に



私は窓を押し広げた。






まるでシャボン玉が弾けた様に流れ込む風。
その霧を含んだ温かくも涼しい風が、私の首筋を撫でて室内を満たしてゆく。



真冬の如く冷えきっていた部屋に滑り込んだ夏空の匂い。

虫の声。

星の輝き。



煌めく空を十分に舞ったであろう夏の輝きを孕んだ風が、私の髪を櫛梳る。





止まっていた時計の針が


風の訪れと共に、秒針を刻み出す。


確かに聞いたのだ。


私は、夏の甦る





その音を。










眼下にいる、愛しの人を見詰めながら






夏が、


息を吹き返す。




眩しいぐらいの光の中で。




end

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