Dream

温もりを捨てたチョコ
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「悠のっ……馬鹿ぁっ!!!!」


ガッ!




ギイギイと嫌な音をたてながら、ゴミ箱の蓋が前後する。
コンビニから出てくる人々が、私を訝し気に一瞥して去っていくを繰り返す中、


涙が止まらない。





ふと、私を叫び呼ぶ悠一郎の声。
私は慌てて涙を拭い去り、アスファルトに横倒しになっている鞄を抱え込んだ。


来んなっ…!!!




私は悠一郎から逃げ出そうと脚に力を込めた。

……が、その脚を一歩も踏み出す事なく、私は悠一郎に捕らえられてしまった。




「何で、逃げん、の?」


どれだけの疾走で駆けたのか。
悠一郎の肩は、呼吸に合わせて上下に動く。

私は泣き顔を見られたくなくて、右横にある信号機ばかり一点に見詰めていた。


「……チョコ。」


私が喉を振り絞り、出した精一杯の一言に、悠一郎は瞬きを繰り返す。


「オレ、お前以外の娘からの貰ってねーよ?」

「…知ってる」


悠一郎は等々訳が分からないとでも言う様に、首を傾げた。

だって私が今こんなになってるのも、悠一郎は何も悪くない。
つまり先程の暴言は八つ当たりに過ぎなかった。

私は鼻を啜ると、重い唇を開いた。



「失敗した……」

「何が?」

「………悠のリクエストしてくれた、…トリュフ」

「なぁ、それって失敗するもんなの?」


「だったら、折角ラッピングまでしたのに捨てないよっ!!!」


私は俯きながら、吐き捨てる様に叫び続けた。



「だって…板チョコ上手く溶けないし、丸めるったって、何か歪な形になっちゃったから、スプーン使ってみても今度はスプーンにチョコ付いちゃうし、手とかにもチョコ引っ付いてベトベトになるし、挙げ句にはトリュフにヒビ入るしっ……」


自分で語っておきながら、その不器用さがつくづく腹立たしい。


「でも悠には私があげるから…絶対作んなきゃって、だから……。
でも、やっぱ、あんな不細工なトリュフ、あげらんなくなって……」


涙の粒がまた一粒と、私の頬を伝った。
直ぐに泣いてしまう自分にも腹が立つ。

そんな悔しさにまた涙。
何と云う悪循環。






そんな私の頬を、突然悠一郎は左右につねった。



「い!!?ぃはっ―――!!!」

「ばっかじゃねーの?」


そのまま悠一郎は私に、ちゅっと軽く音を立てる様な甘い口付けをする。


「オレは別にお前がくれんなら、どんなもんだって嬉しいし、んな泣いちゃうぐらいだったら作んの辞めても良かったんだぞ?」

「それは…ヤダったし……///」


不意討ちのキスに、未だに顔を赤くしている私。



いつも私ばっか、何でこんなにドキドキしなきゃなんないのさ。



少しふてくされながら悠一郎を見上げると、驚きの余り、私は口を閉じるのを忘れてしまった。


「…悠、顔……赤すぎない?だ、大丈夫?」

「んー……だいじょばないかも」


悠一郎は食い入る様に私を見詰めると、ぎゅっと抱き締めた。


「ヤバいって!!お前、すっごく可愛いんだけどっ///」

「へ?」

「オレの為に怒ったり、泣いたり、照れたりって…なんか、えと……ゆーえつかんって感じ!!」

「ちょっと、悠!?どうしたの??」

「好きっ!!ゲンミツに好きだ!!
お前からのチョコも欲しかったけど、正直オレ、お前の方が欲しいや」


悠一郎はニッコリと微笑みながら頷くと、もう一度、その唇と私の唇を重ね合わせた。




「…ん、なんかお前の唇、甘くね?」

「そ、かな…?失敗作チョコ食べまくったから?」

「わかんねーけど、うまそうっ!!」

「……あんましデカイ声出さないでよ、恥ずい///」


ヘヘっと笑う悠一郎と肩を並べて歩き出す。
来年こそは、この不器用を克服するぞと誓いながら。




この後、悠一郎の家に誘われたのは

言うまでもない。




〜ハッピーバレンタイン〜

end

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