story

□雪が降る空(ss)
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東京で雪が降るのはとても珍しい。
だから、こんな日は何か特別なことを期待してしまう。

「なぁなぁ、東、雪降ってるぞ?」
「ああ、そうだな。」
「なぁなぁ、東、お前今日雪降るの知ってたか?」
「ああ、朝TVの天気予報で言ってたな。」
「なぁなぁ、東、何で傘がいるって朝言わねぇんだよ?」
「お前が寝坊して時間に余裕が無かったからだろ。」
「なぁなぁ、東。何でお前だけ傘持ってんだよ?」
「雪が降るって言ってたからな。」
「なぁなぁ、東、何でお前だけ手袋準備してきてるんだ?」
「傘持つ手が冷えるだろ。」

「なぁ、東…なんで男同士で相合傘してるんだろうな?」
「お前が傘持って来ねぇからだろ。」

飽きることなく繰り返される質問に、飽きることなく応える。
お前が問いを口にする度、掴み所のない白い吐息が宙に浮く。
暖かで柔らかで他愛もない、お前の吐息。

繰り返す問いに意味はない。
ただ、このしんと静まり返った空の下で寄り添うことに意味がある。
おれとお前でただただ会話を続けることに意味がある。

「なぁ、東。雪はどこから来るのかな」
「空からだろ」

傘を少し外して、天空を見上げる。
真っ暗な空から、白い雪が重みもなくふわふわと落下してくる。
コウの差し出す掌に軽やかに雪が舞い、音もなく溶けた。
雪の名残が指先をほんのわずかに濡らす。

「指先、冷てぇのに、それでも雪は溶けるんだな」

独り言のように呟いた一言が哀しい響きで耳に残る。
濡れた指先にそっと唇を寄せて、雪の名残を舐め取って呟く。

「お前も、溶けるだろ?」

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