復活novel

夜桜見物
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頭上を覆う満開の桜に、思わずため息が出た。

漆黒の闇に浮かび上がる薄紅色の花は、まるで夏の雲のようにどっしりと質量を持っている。

その見事な桜の木は、歴史ある温泉宿の、この客室でしか見ることが出来ないのだから、本当に贅を尽くした部屋と言える。

その部屋の縁側にて寄り添うように男二人が夜桜見物をしていた。


「気に入っていただけましたか?」


「うん。…こんなに綺麗な桜は初めてだ。」


綱吉はライトアップされた桜の迫力に押され、すっかり魅了されていた。


リハビリに明け暮れる日常から逸脱して、自然が作り出す幻想的な世界をここの宿はどの季節でも感じさせてくれるのではないだろうか。

数ヶ月前に、初めて訪れた時は、最上階にて白銀の世界を一望出来きたし…

季節毎に来ようと骸が言ってくれたので、次は夏の風景が拝めるのだろうか。

針葉樹が所狭しと生える、人里離れた山奥なのだから、絶好の避暑地に違いないと、桜を目の前にして夏の景色を思い浮かべていた。


「以前は白一色で、景色を楽しむには物足りない感じがしましたが、春は色付いていて良いですね。」


骸も前回の旅行を思い出していたようだ。


「うん……………。」


前回の旅行と言えば、数ヶ月前なので、記憶に新しい……と言うか、強烈な記憶が、しっかりと脳裏に焼き付いてしまっていると表現する方が適している。


あの晩、マッサージからいかがわしい行為に発展し、最後まではいかなかったものの、確実に一線を越えてしまったのだ。

骸曰く、体調管理の一環で、何でも年頃の男なのだから精通は勿論の事、自慰行為も一定のサイクルで行うべきだとの事。

後から思えば「何が体調管理だ」と苛立ちを覚えたが、そんな奇抜な一押しがないかぎり、二人の仲は進展出来なかったとも思う。

しかし、綱吉が望む進展とは、緩やかな上り坂のように、少しずつゆっくりとした変化であって、決して急展開ではなかったはずだった。

だが今こうして骸と肩を並べて、寄り添える間柄に至ったからには、急展開をそれほど否定する訳にもいかない。

とどのつまり、綱吉も心のどこかで骸との進展を求めていたので、強引に持っていかれた展開であった方がむしろ良かったということだ。


宿屋の一件から、当初の関係はぎこちないものに一時後退してしまったが、回を重ねる毎にお互いの距離は一気に縮まった。


とは言うものの、一線を越えた先にある、もう一線は未だに越えることは出来ない壁のままだ。

この一線も、奇抜な一押しが必要なのだろうか。
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