復活novel
□花嫁のキス Side・C
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これが辛うじて獣道と呼ばれないのは、所々に人が手を加えたとされる石段があるからだろう。
細く曲がりくねった山道をもう一時間以上歩いている。
枯れ木に雪が積もっていて、上り始めた当初は自然が作り出すそんな些細な風景に心踊ったが、一時間以上枯れ木と雪ばかり見せられては流石に飽きてしまった。
「ふぅ…………」
手足の末端が冷えてしまい、だいぶ前から感覚はなくなっているので、ふわふわと宙を浮いている心地だ。
そんな状態なのだから、たかだか五段程の石段を登るのにも躊躇してしまう。
「どうしました?まだ先は長いですよ?」
少し手前から骸の楽しそうな声が降ってくる。
顔を上げると石段の先にある枯れ木にもたれ掛かっている骸の姿があった。
「い、今行く。」
強がって睨んではみたものの、リハビリ中の身体に段を登るの動作は少々きついものがある。
右足を上げて、重心を調節しながら踏み込んで…
一段目に右足が付いた時点で、また重心を変えて今度は左足を……
まどろっこしいが、冷えてしまったのだから仕方がない。
この身体に憑依して一週間。
骸の話だと、このような山道を歩けるようになるまで、通常ならおおよそ一年は掛かるらしい。
他人の身体を動かすのだから慣れるまでに費やす時間とは、そんなものかもしれない。
なので、今来た道を振り返ると、改めてこれは驚異の進捗状況だと痛感する。
生みの親である綱吉の細胞から作り出された肉体なのだから、当然と言えば当然だが。
それでもやはり思うように動かすにはまだまだリハビリば必要であり、例えばこのように考え事をして気を抜くと………
「うわぁっ!」
足を踏み外して、あわや大惨事に成りかねない。
「綱吉くんっ!」
もし骸の瞬発力が欠けていたら、獣道に放り出されていたところだ。
とっさに手を捉まれて抱き寄せられた。
「全く…。注意力散漫ですよ。」
「あっ………。」
呆れ顔ですら美しく、直視するには強固な精神力が必要で、こんなに近いと誰だって顔を背けてしまう。
綱吉もそれに関して例外ではないが、もう一つ顔を背けてしまう要因がある。顔を近付ける行為……つまりは唇を合わせる事には細心の注意を払っているので
間違っても自ら口付けてしまわないように…。
何故なら、骸とある約束を交わしたからだ。
それは今朝の出来事であった。
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今朝は通勤ラッシュの雑踏や車のエンジン音で目を覚ますのではなく、唇の違和感で目が覚めた。