復活novel
□ヤキモチ
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滞りなく授業が進行していくのは何とも面妖な光景だった。
新任の数学教師がいつになく生き生きと舌を振るえている。
(分かりやすい先生…)
と、自分の事は棚に上げて思うのは山本であった。
今では数学から完全に脱線していて、何故か昨夜放送された映画について力説している。
新任で、やっと並盛中に馴染み始めた彼に、時間にも精神的にも余裕を見せられる要因は誰もが知っていた。
獄寺隼人がいないからである。
サボり癖のある獄寺なら珍しくない光景なのかもしれないが、数学や英語等の綱吉が苦手とする科目に関しては豆に参加し、その予習復習をする役目を買って出ているのである。
授業内容から脱線しようものなら、殺傷能力の高い目付きで睨むのだから、ベテラン教師だろうが終始背筋を凍らせて進行しなければならない。
その獄寺が、今日に限ってはサボり…という訳ではなく、朝から姿を見せていない。
つまり学校を休んでいるのであった。
今日何度目になるのか、獄寺の席に視線を移すがいないものはいないのであって、こちらも何度目かのため息をついた。
獄寺が心から慕う綱吉ですら、理由が分からないと言うのだから何かあったのかと心配してしまう。
昨日までは通常通りだったのにと、昨夜の出来事から思い返してみる。
(確か部活帰りに獄寺んちに寄って、風呂借りて…)
初めて身体を重ねてから一週間は空いていたので、そろそろお誘いをしてもいいのかとシャワーを浴びながら考えていたところ、浴室のドア越しに「今日はさっさと帰れ」と言われたのを思い出した。
平日のど真ん中だったので、山本も夜まで長居するつもりはなかったが、一度は身体を繋げた仲なので、それ相応のスキンシップを期待していたのだが、なんとキスすら許してもらえなかった。
触れようものなら鋭い目付きで“寄るな”と訴え、帰宅を促された。
結局、やや膨れ上がった期待は見事に裏切られ、心ではガックリ肩を落としつつ、笑顔で帰路についたのだった。
一見いつもの獄寺だ。
恋人らしい雰囲気に浸るより、羞恥心が先行してしまい、その照れ隠しとして愛情が裏返ってしまうのだ。
昨夜も例のごとくそうなのかと思った。
自分の押しが足りなかったのかと反省点をつらつら頭の中で思い浮かべながら帰ったものである。
もしかしたら、体調が優れなかったのだろうか。
それとも、早く帰ってほしい訳でもあったのだろうか…。
嫌な疑惑が浮上する。
(今日、顔見に行くか…)
答えはないのについつい、いろいろと考えてしまい、結局は会いに行こうという事で落ち着くのだが、終礼の時間までずっとぐるぐるしていた。