復活novel
□君と共に(前編)
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呼んでも返事はない。
叫んでも気付いてくれない。
最後に名前を口にしたのはいつだったか…
必要とされなくなって、存在理由を無くしたと理解してから、何かを悟った。
それは虚空に投げ出されたかのような絶望。
本来は羽化して優美に飛び立つ蝶の残淬であるサナギは、役目を終えて、存在理由を失うと静かに土へ還るのだが……
そのサナギのように、おとなしく土へ還ることも出来ずに、ただただ、“外”を眺めていた。
そんなある日、喜怒哀楽の感情に乏しい傍観者に、一筋の光が射した。
その淡い光輝の名前は「恋」。
それを自覚した時、自分は従順な傍観者ではない事を知った。
───外に出たい。
───俺だってあんたの事愛してる…
───待ってて…
───恭弥………
────……………
(変な夢……………)
ジリリリ……
(………………………)
ジリリリリリリ…
(………うるさいな…)
ジリリリリリリリリリ…
(この音…何だっけ…?)
耳障りだけど、無視できない強制力のある音だ。
(えっと…たしか……。……目覚まし時計の………目覚まし時計………!?)
「あ〜〜〜〜〜!!」
綱吉は弾かれたように飛び起きて時計を見ると、目覚まし時計のベルが三十分間も鳴っていたことを知らしめられる。
すなわち、顔を洗って制服に着替える時間しかないということだ。
泣く泣く朝食を諦めて、家を飛び出した。
いつもの時間なら通学路は並盛中の生徒がちらほら歩いている姿があるのだが、どこを見ても人一人見当たらない。
それもそのはず、風紀委員に楯突く者などいるはずもなく、この光景は当たり前だと言えば当たり前なのだが…
はっきりとは覚えていないが、今朝見た夢の雰囲気が、この静閑さと酷似していたため、何だか異様に感じる。
正面に校舎が悠々とそびえ立っていて、ゴール目前。まず確認するのは校舎に設置されている時計の文字盤ではなく、校門だ。
何時であろうと、風紀委員により閉ざされてしまってはお仕舞いなのだ。
校門がまだ開いているのが見えて、少しホッとする。
だが油断はできない。
後二十メートルくらい距離が残されている為、今この瞬間に閉門が開始されると間に合わないので、スピードは維持する。
日頃の運動不足が祟り、すでに足腰が悲鳴を上げているが、ここは忍耐だ。
(……腰に力が入らない要因は他にあるけど…)
昨日の放課後、何度も何度も激しく、楔を打ち付けられて、愛された時間を思い返してしまい、頬が紅潮する。
だいたい、あんなに激しく求められると、その夜だって熱が冷め切らずに快眠出来ないのであって……
だが、余計な事を考えてしまったせいで、校門から出てきた諸悪の根源に気付かず、綱吉は彼の胸に飛び込む形になってしまった。
「はい。君、遅刻。」
「え……!?」