復活novel
□甘い戦い
2ページ/5ページ
と、その時校内放送が鳴り響いた。
『沢田綱吉、今すぐ応接室に…』
言わずと知れた、この町の秩序が綱吉を呼んでいる。それも、重低音で…
これは彼の、ご機嫌斜めな状態を表していて、即ち綱吉は、なりふり構わず応接室へダッシュしなければならないという事だ。
「ごめん…っ」
とだけ言い残し、綱吉は脱兎のごとく屋上から姿を消した。
ジャッジを下す人間がいなくなり、寒空の下残された二人はこの勝負をどうするか迷った。
綱吉がいなくなったからと言って、勝負が終わった訳ではない。終わったと決めつけて口を離した方が負けだ。
山本は、この勝負に負ける訳にはいかないと、強気な姿勢で挑む。
なんたって、初めての自室デートが掛かっているのだ。この機会を逃すと、次はいつになるのか分からない。
恥ずかしがり屋な獄寺にとっても悪い話ではない…はず。自分の事を好きでいてくれるのなら、負けを口実にして自室デートを認めてもいいのに…なんて思っているのだが。
一歩も引かない獄寺を見ていると、自信がなくなる。
(そんなに自室デートが嫌なのか…?)
試しにまた三センチ程幅を埋めてみる。
二人の距離は後二、三センチといったところだろうか。
獄寺の体温が伝わってくるギリギリの距離だ。
最後に口付けてから何日経っているのか回想するが、すぐに後悔した。
(もしかして…温泉旅行以来してないんじゃ…)
乾いた喉が水を欲するかのように、自然と獄寺の唇が欲しくなった。
一度欲しいと望んでしまうと、タガが外れたように、とめどなく欲望が増大していく。
(獄寺…折れろって…!何むきになってんだよ…)
山本の我慢に限界が来るか、獄寺が先に折れるか…。
もう後は念じるしかない。
折れろ、折れろ、折れろ…!!
ポキッ…
乾いた音を立てて折れたのは、ポッキーだった。
丁度真ん中で折れてしまい、二人はそのまま硬直した。
「なっ……」
この結果は想定外だ。
負ける事のないこのゲームは、勝てば自室デート、ドローでもキスが出来るという夢のような内容だったはず…!
まさか獄寺はこれを狙っていたのだろうか。
獄寺隼人…恐るべし。
山本は長い間、神経を研ぎ澄ましていた為、その分脱力感も大きかった。
魂が抜けたようにフラフラとその場にしゃがみ込んだ。