復活novel
□湯煙の罠 Side・A
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(雲雀さんって、時々俺に対してこういうことするけど…俺のことどう思ってるのかな…?)
顔を上げるとすぐそこには雲雀の整った顔がある。
形の良い輪郭、切れ長な瞳、時折風になびく漆黒の髪…
男らしさを感じさせるその容貌をどれ一つとして綱吉は持ち合わせていなかった。
(無い物ねだりって言うか…もしかして、俺って実は雲雀さんに憧れてたりするのかな…)
ぼーっと考え事をしていると、雲雀と目が合った。
「何?物欲しそうな顔して」
「へ?い、いえっ!何でもないです!」
考えていたことが、つい口に出てしまったのかと焦ってしまった。
こんな事を言ってしまえば確実に咬み殺されてしまうのではないだろうか。
考え事をしていて気付かなかったが、いつの間にか霧が発生していたようで、視界にもやがかかっている。
雲雀が足を止め、視線を前に戻したので、綱吉もそれに従った。
もやの向こうに影が見えた。
目を凝らしてよく見ると目の前に民宿らしき建物があるのが分かる。
木材を基調として建てられた風だが、手入れはされていないのだろうか、木質の看板は腐り傾いている。
蜘蛛の巣まで所々に張り巡らされているものの、その住人でさえ、既に住みかを明け渡しているのか、見当たらない。
濃い霧がおどろおどろしい空気を後押しして、完全にお化け屋敷だ。百歩譲っても風情がある建物だなんて、お世辞にも言えない。
「うっ…っ」
背筋に悪寒が走る。
(何だろうここ…絶対何か出るっ!)
「へぇ〜!良いっすね。十代目!和の風情が感じられる佇まいですね!」
(獄寺くんって和の風情をどう解釈してるんだろ…)
綱吉が返答に困っていると、雲雀は綱吉を抱えたまま獄寺を無視するようにして足を進めた。
「雲雀さん、もう歩けますからっ」
このまま建物に入って、他の人に見られるのは恥ずかしい。
慌てて強引に自ら下りた。
「なーなー、これって正に曰く付きって感じだよなー。」
「山本っ!のんきに恐ろしいこと言わないでよ!」
絶対口に出したくなかった言葉をさらりと言われてしまい、焦る。
そんな綱吉とは裏腹に獄寺はというと、
「曰く…?いや、ここは魅惑の秘湯があるんすよ!知る人ぞ知る魅惑の秘湯が!なんたってリボーンさんが勧めてくれた温泉すよ!?それにこの湯気!ただならぬ感じがします!」
やけに乗り気である。
「確かにただならない空気を醸し出してるけど……でもそのリボーンが勧めたって辺りが一番怪しいんだけどね…」
そして雲雀はというと、
「あの赤ん坊…悪趣味な真似を…」
などと言うものの、何故か彼が一番楽しそうにしている。
こんな薄気味悪い温泉より、近場のスーパー銭湯の方がよっぽど安心できる…
と内心思っていても、他のメンツがこの調子なので何も言えない。
綱吉は一抹の不安を残して建物に入って行くのだった。