復活novel

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スライドさせた保健室の扉が騒々しい音を立てた。


「シャマル!悪い、保健室使わせてくれ!」


俺は観念しておとなしくなった獄寺を手近な椅子に座らせ、棚から消毒液と乾いたタオルを取り出した。

怪我人の絶えない体育の教師をやっていると、保健室事情に詳しくなる。
女子以外口も聞きたくないと偏向した意見を持つ校医のお陰で、勝手知ったるなんとやら…。保健室事情に加え、手当ての仕方も様になってきた今日この頃だ。

今回も男子生徒なので、いつも通りシャマルの目がある所で応急措置を施す。

獄寺の袖を捲り上げ、縦に入った傷を見た。


細くて白い腕…


しなやかだが、女性のものとはまた違う。そこそこ男らしい筋肉が白い肌の下にあるのが分かる。


「……………?」


ふいに、いつぞやの情景が脳裏をかすめた。
この白い手が俺の肩を押しやって、小さな抵抗を見せる。だが、程なくしてぱたりとシーツに沈む…


あ、何だ…。俺のいつもの妄想じゃないか。

俺はこんな時まで何を考えて…。いや、獄寺に触れているんだからそりゃちょっとはエロい気分になったりしてもおかしくないよな。

そんなよこしまな気持ちを抱えながら、消毒液を傷口に垂らす。


「んっ……」


少し染みたのか、獄寺は目を細めて、小さく声をもらした。


「わ、悪い。直ぐ終わらすから。」


いやらしい妄想は尽きないようだ。俺はポーカーフェイスを決め込んで、てきぱきと傷口を清潔なタオルで拭った。傷は意外にも浅いらしく、出血も治まっていて、心底安堵した。


「大丈夫そうだな…。ホント、ごめんな。こんなつもりじゃなかったんだ…」


吸い付くようなきめ細かな肌に魅せられて、無意識に獄寺の手の甲を親指で撫でた。
ピクリと震えた指にはめてあった、シルバーのアクセサリーが重厚な光を放っている。
ふいに、人差し指にある銀の髑髏と目が合ったような心地になった。心奥を見透かされているような、冷たい視線だ。
俺は逃れるようにして、隣の中指に視線を移す。すらりとした、器用そうな指だ。
その指の付け根にうっすらと日焼けを逃れて出来た指輪の跡があった。
アクセサリー好きのようだし、日によって付ける指が違ったりするのだろうか…


「も……離せよ…」


「へ?…あ、ああ、悪い!ガーゼ巻いたら終わりにするから!」


いつの間にやら、珠玉の芸術品の観賞をしていたらしい。
男にまじまじと手を見られるなんて…やっぱり嫌だよな…。
自己嫌悪の輪から逃れられず、慌ててガーゼが保管されている引き出しへと駆け寄ると、また視線を感じた。

振り向くと、校医のシャマルが事務机に頬杖付いて、こちらをじっと見ていた。
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