復活novel

不器用な心 1
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※山本視点


相変わらず獄寺の反応は薄い。

しかし週に2回、無情にも体育の授業は訪れるわけで…

今日も欠席者を一人抱えたまま体育の授業を開始した。
風は乾いていて冷たいが、晴れ晴れとした清々しい陽気だ。
こんな中体を動かしたらさぞ気持ちがいいだろうに…

ふと青空にあった屋上が目に入った。
正確にはその屋上で蠢く影が気になったのだ。
ふらふらとした足取りで、何かを探しているような素振りを見せる者がいる。


獄寺だ。


どうせなら俺の目がない所でサボって欲しい…という気持ちより、僅かにときめきの方が勝ってしまっている自分に憤りを感じた。

こんなんじゃ駄目だ。

獄寺にとっても、早く授業に参加して、進級を前向きに考えてもらわないと…

俺は勝手な憤りをバネに変えて、今日こそは獄寺に向き合おうと強く思った。

俺個人に抵抗があるのなら、それは俺自身の欠陥として甘んじて受けよう。

傷つく事を恐れては解決なんて出来ない。

俺は体育の授業をそつなくこなし、彼が籠城している屋上へと向かった。

普段学生は入れないよう、南京錠で固く閉ざされている屋上だが、それは見せかけだけの古びた南京錠であることはもはや周知の事実だろう。

南京錠は外れたままの状態で、俺は足が重くなったのを感じた。

獄寺とすれ違いになればいい…だなんて、問題を回避する事を心の何処かで願っていたんだろう。


「…………しっかりしろ、このままじゃ獄寺が進級出来ないんだ。」


自らを鼓舞し、屋上へ通じる鉄製の扉を勢いよく開いた。

獄寺との距離は僅か10メートル程で、思いの外屋上とは狭い所なのだと知らしめられる。

獄寺は排水溝を覗き込んでいて、突如として降り掛かった事態に声を上げて構えた。

やはり何かを探してる…?


「こんなところで何してるんだ?」


緊張からか声が引くなり、それが獄寺の反発を買ってしまったようだ。獄寺の表情はみるみる陰りを見せた。


「てめーには関係ないだろ。」


いつものように素っ気ないばかりか、怒気を向けられた俺は、大人気なく反発してしまう。


「関係なくはない。いい加減、授業に出てくれ。」


「……またそれかよ。出る気はない。ダブろうが退学になろうが知ったこっちゃねーよ。」


進級が出来ない云々を説教してやりたかったのに、先に先手を打たれた心地がした。

話は終わったとばかりにそっぽを向く彼の横顔は、とても美しかった。泣いても怒っても、美人は美人なのだ。

長居するには少々気温が低いように思えたが、俺は獄寺を諭そうと心を決め、彼に歩み寄った。
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