復活novel

夏の宿にて1
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※ちょっとHです。


骸に抱かれた。

あれは、恍惚とした甘い一夜だった。

それでいて、強烈で刺激的で…

とにかく無我夢中で、すがる様にして骸にしがみ付いていた。

しかし何故だろう。

満たされたはずの心が、満たされていないのだ。

もう少し正確に表現するなら、骸と身体を重ね、これ以上ないくらいぴったりと肌を合わせていたにも関わらず、彼を遠くに感じてしまう。

どうしたというのだろうか。
身体を繋げる前よりも空虚に感じてしまうのは何故だろう…



「骸…………」


不安ばかり込み上げてきて、思わず愛しい彼の名前を口にした。


「どうしました?休憩しましょうか?」


先方を歩いていた骸は足を止め、こちらを振り返った。男でもドキリとしてしまう程整った美顔で、心配そうに尋ねてくる。
確かに彼はここにいる。直ぐ傍に、手を伸ばせば届く距離に…


何故だろう………骸が遠い。




あの一夜から一ヶ月が経ち、季節は完全に夏へと移行した。
刺すような日差しに曝されながら獣道を進み、またあの温泉宿へとやってきたのだ。

木々は青々と茂り、蝉が命を燃やして声高々に主張する。そんな生命力が溢れる夏の山を一望出来る部屋で、綱吉は小一時間酷使した足を投げ出し、冷たい畳に熱を移していた。


「疲れた………」


この一言に尽きる。
いくら自在に身体を動かせるようになったからと言っても、体力はまた別の問題だ。
公共の交通手段があるのに徒歩で移動するなんて…

不平を言おうとしたが、直ぐに止めた。骸の言う温泉に関しての極意を思い出したからだ。

『疲労を感じぬ者に温泉に入る資格はありません。疲労あっての温泉です。』

とかなんとか。

分からないでもないが、たまには疲労云々抜きで気軽に温泉を楽しみたいと思うのは贅沢なのだろうか。


「これも体力作りの一環だと思ってください。露天風呂から上がったらマッサージもしますし。」


と、含みのある笑みを向けてくる。


「…………………。」


マッサージをしてもらうのは有難いと素直に思うのだが、そのマッサージで使用する特殊なオイルのせいで、おかしな気分になってしまい、どうしても性行為に発展してしまうのだ。

つまり、マッサージをするという事はそういう事で…

返答に困った綱吉は、ちらりと屋外へ続くガラス扉を見た。露天風呂付きの客室で、外では湯けむりがほわほわと漂っている。

暑い季節に温泉なんて…と、正直気乗りしていなかったが、疲労感に侵された身体が、あの熱めのお湯を求めてしまっている。

しかしながら、今は真っ昼間であって、いかがわしい行為をするには不適切な時間帯である。


(明るいし……)


と、様々な感情に板挟みにあいながら綱吉が出した結論は、二人きりの客室露天風呂ではなく、大衆の目のある大浴場へ行こうというものだった。

これなら温泉に浸かれるし、欲情剥き出しの骸だって公共の場で変な行動は出来ないだろうと踏んだのだ。


「大浴場ですか?それは構いませんが…」


「い、いいの?」


あっさりと承諾された事に拍子抜けだ。

だが、その理由は直ぐに分かった。
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