復活novel

ある男の夢
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※ちょっとHです
※山本視点




持久走が開始されてから、生徒達の醸し出す空気は更に重くなったように感じる。

忍耐力がもの言う種目なので分かってやれなくもないが、やはり教師の立場としては望むところではない。


「走ってたらいつの間にか授業が終わってるのが持久走だ。取り敢えず1キロ5分以内を目標にただただ走ってみろ。」


鼓舞したつもりだったが、生徒達から不平が飛ぶ。
忍耐力が養われる…という素敵なオプションが付いている種目だが、今これを言ってはいけないのは空気で分かる。

「まあまあ」と、俺は何とか生徒達を諭し、持久走を開始した。

ストップウォッチを片手にとにかく「後少しだ!」「頑張れ!」を繰り返す。


私立中高一貫校の高等学校に就任して日も浅く、精一杯の力を出して指導に明け暮れる毎日を送っていた。
このエリート校への就任が決まった時は嬉しかったし、大学卒業したてのこの若さと活力を武器に、生徒達の心を掴んで……等と意気込んでいた日を遠くに感じている。

当初バッチリ生徒の心を掴んでいたはずなのだが、思っていたよりも、生徒の扱いは難しかった。俺が高校の時はもっと素直なただのガキだったけどなぁ…

そんな風にこぼしてしまわないように、これも指導力不足だとして自分を戒める。

指導力不足……

就任したての立場なので、これから身に付けていくものだと思っているし、同僚にも同じように励まされたりもするが、どうも自信が持てないのはある難題を一件抱えているからだろう。

獄寺隼人。

彼が体育の授業に出席したがらないのだ。

身体を動かすのが苦手なのか、俺が苦手なのか…

何にせよ、本人とよく話し合う等して、単位だけは落とさないようにしなければならない。

本校は教職員評価制度を積極的に取り入れているので、俺は自分の欠点を早くに改善したいという思いから、問題児をよく観察し、声を掛けることにした。

…と言っても担任でもないので廊下ですれ違う時に挨拶をする程度だが。

こんなとっかかりが恋心に発展するなんて誰が思っただろうか。

それは突然訪れた。


休日の朝、眠い目を擦りベッドから降りようと腰に力を入れたところ、何かに阻まれてそれは叶わなかった。


『ん……?何だ?』


何かが腰に巻き付いている。不思議に思い、掛け布団を捲るとそこには──…


『ご、獄寺!?』


頭を悩ませていた元凶にして生徒の獄寺が俺の腰を抱き枕のようにして腕を回して寝息を立てていたのだ。

それも、裸で…


『……んだよ。…山本、起きたのか?』


『なっ…なっ……』


現状を把握出来ないでいると、朝日をキラキラと反射させた艶やかな銀髪を耳に掛ける仕草をしながら、獄寺も上体をお越し、こちらにずいと詰め寄った。
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