復活novel
□教師はつらいよ
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※獄寺視点
「はぁ……喫煙者は肩身が狭いねぇ…」
ここ、私立中高一貫校は広大な敷地面積を誇るエリート校だ。今しがた吐かれたうだつの上がらないサラリーマンのぼやきの様なものは、旧校舎にある物置専用の部屋から聞こえたものだ。
そしてぼやきは続く。
「愛煙家は遂にここまで追いやられたってわけだ。保健室から何メートル離れてると思っていやがる。ったく…」
まだ何か言いたげだった口を塞ぐ為に、俺は仕方なく発言してやる。
「生徒の目に触れない所で吸ってくれって親共がうるさいからな。それに、愛煙家いじめは学校に限った事じゃないだろ?」
学校に子供を預ける親御さんのご要望とあっては聞き入れないわけにはいかないのだ。学校側が努力すれば叶う要望なのだから尚更…。
個人的には、生徒が一切寄り付かない辺境の地である旧校舎で一服出来るというのはまあ悪くない条件だとは思う。が、吸いたい時に場所を選べないとこぼす、目の前にいる校医…シャマルの言うことも分からないでもない。
「何でもかんでも親、親って…学校はいつの間に小売業の末端店舗になったんだ。仕舞に教師全員接客やらされるぞ。」
「教育現場のサービス化も今に始まった事じゃないな。親を顧客と呼ぶ時代だぜ?ちっとは馴染めよ、世間知らず。」
俺は冷静にいなして二本目へと手を伸ばした。ここ最近厄日が続き、そのストレスを軽減する為に煙草の量が増えていた。
旧校舎に足を運ぶ回数もまた然り。
不平に賛同しない俺を面白くないと目で訴えていたシャマルだが、こういう時には決まった文句で反撃してくる。
「隼人、そもそもお前はうちの生徒で、未成年だろうが。」
そう、俺は煙草云々と言える立場ではないのだ。
だが、一介の校医に言われて嗜好品を引っ込めるわけもなく、手慣れた手つきで火を点けて鎮静物質を肺に流し込んだ。
「おいおい…。せめて俺の目を盗んでだな…」
「るせー。俺だってストレスくらい溜まるんだよ。」
ため息と一緒に煙を窓の外に吐いた。見上げると青空に雲がパラパラと点在している。カラッと乾燥した秋晴れだったが、俺にはそれが曇り空に見えてしまうくらい心情は落ち込んでいた。
この2週間、俺は死んだようにフラフラと日常を日常として過ごし、あの日の出来事を忘れようとした。
でも……また旧校舎で煙草を吸って一日の大半を過ごしてしまっているということは、まだまだ過去のものとして忘れ去れないようだ。
一人辛気臭い空気を醸し出しているとついに見兼ねたシャマルが口を開いた。