復活novel

旅行
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勝負は待った無しの一回きり。

勝敗は五分五分の、世界的に極めて平和的な解決法だ。

その名は『ジャンケン』。

雲雀は綱吉と旅行が決まってから、何かしら余興はないかと思案していた。

ただ旅行に行って、その夜身体を重ねる……というのは一般的に恋人として至福の時間ではあるが、雲雀と綱吉との間では、それは既に自然的な日常の域に達している。

マンネリ化とまでは思わないが、少しの変化は欲しいと雲雀は思う。

そこで、今回の旅行を更に楽しむ為に綱吉と一勝負し、勝った方が負けた者に何でも言うことを聞いてもらえる…なんて子供じみた考えに至った。

子供じみているが、することは勿論未成年お断りの大人な内容だ。

綱吉にあんな事やそんな事をしてもらえるなんて、想像しただけでも旅行が楽しみで仕方がない。

勝敗は五分五分…

だが、雲雀の動体視力にかかれば相手が誰であろうと、見極めることが出来るので、勝率はほぼ百パーセントだ。


…………といった流れで、筋書通り雲雀は見事勝利を収め、温泉旅行へと出かけた。


「雲雀さんと旅行なんて久しぶりで、凄く楽しみです。」


「僕もだよ。」


綱吉は荷物持ちとか肩揉みとか、罰ゲーム程度にしか感じていないらしく、この度の旅行を純粋に楽しもうとしている。

今晩、その笑顔が困惑を滲ませ、やがて快楽に蝕まれたその時、権利を施行させてもらう。

爽やかな笑顔の皮一枚捲れば、悪計を企てた者の黒い笑顔が隠されていた。


温泉地として割と名の知れている観光地だからだろうか、明らかに外部者の観光客の装いをしている人々とよく擦れ違う。
それどころか、彼らと共に郷土料理に舌鼓を打ったり、山間から見える都会の景色に思いを馳せたりするのは少し癪だと感じたが、可愛い恋人は思いの外、気にならないようで、さして珍しくもない観光が琴線に触れたらしく、目を輝かせている。雲雀自身もその愛くるしい様子に徐々に心が満たされていった。

綱吉はどちらかと言うと、のんびりとした性格ではあるが、二人きりのデートの時などはその本領を発揮して緻密な計画を立ててくれる。

二人の時間なのだから、きちんと計画を立てて楽しみを取りこぼさんと躍起になっているようにも見える。
一日を無駄なく過ごすという考えには同感だが、雲雀は時間に縛られたくない性分なので、二人でゆっくり静かな場所で語らいたいとも思う。


「あ、もう六時ですね。そろそろ宿屋に行きましょうか。夕飯が七時からで、大浴場が十時までですので、身体には悪いですがご飯から先に……」


ホント、こういう時はチャキチャキと動く口である。

雲雀はため息をひとつ落として、綱吉を引き寄せ、キスをした。
田舎で街灯も少なく、人目に付きにくい事を考慮しての動作だったが、綱吉はそれでも気が気でない様子だ。


「もう……外ですよ……」


やや咎めるように言って、そのまま俯いてしまった。


「……ごめん。」


自分の口から謝罪の言葉が出るなんて、今更ながら驚く。

この言葉は後にも先にも綱吉の為だけにしか使わないだろう。

そして、その言葉が珍宝に値すると理解のある綱吉は、直ぐにその咎めを撤回した。


「いえ……すいませんっ…俺……」


「うん、じゃあ部屋でゆっくりしよ?」


その言葉に含みがあると肌で感じたのか、綱吉は耳まで真っ赤になって、やがてこくりと頷いた。
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