復活novel2

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「う、嘘だろ…」


何度ポケットを探ってもあの固くて冷ややかな感触は返ってこない。

俺は急く気持ちを制しつつ、自らの記憶を辿った。

放課後までは確かにあった。

体育館倉庫の施錠をし、鍵をポケットにしまう際に、指輪の存在を指先で確認している。その後中庭を通って……


「あ…………。そういや中庭で笹川先生に会って倉庫の鍵を渡したっけ。」


体育祭の準備が少しずつ進められていて、倉庫は頻繁に使われるようになっていた。
多分笹川先生も準備の一環で倉庫に行くのだと思い鍵を手渡しのだが、その時に指輪もポケットから飛び出たに違いない。

そのような映像がありありと思い浮かべられて、思いが確信へと近づいた。

時刻は日付が変わろうとしている辺りだった為、今直ぐ学園に出向いて確認出来ないのが残念ではあるが、明日早めに出勤して確かめようと思った。

持ち主不明の高価な指輪。

誰の物でもない女性ものの指輪なんて、煩わしいものでしかない。いっそのことこのまま見つからなければいいのかもしれない。

でも………

あの指輪は俺の記憶に埋もれているのか、何故か一度何処かで見た気がしていた。

それはとても大切な記憶なのだと本能が知らせているような…


と、その時、数メートル先の街灯が作る灯光の中に人影が現れた。

街灯の間隔が空いているので、暗闇から突然人が現れたように感じて、思わず足を止めてしまった。


「…………………。」


「…………………。」


相手も俺の存在に何やら感じるものがあったのか、歩みを止めてたたずんでいる。
ダメージ加工の黒デニムには銀色のチェーンがじゃらじゃらと取り付けられていて、上から降り注ぐ灯光を弾いていた。

手にした買い物袋には近場にあるコンビニのロゴが刷ってあり、近所の若い者が深夜にコンビニから帰宅するような様相を物語っている。


「…………ぁ…」


その若者は小さく声を洩らしたので、手元の買い物袋から視線を顔に持っていく。


「あっ!ご、獄寺…!」


なんと、様々な悩みの種と夜道で出くわしたのだった。

まあ、目と鼻の先に獄寺のアパートがあるのだから、町内で出会ったとしてもなんら不思議ではないのだが、問題は時間とタイミングだ。

獄寺に、教育者としての確固たる信念を告げて、これまで生徒を個人レベルに見てやれなかった事を謝罪して…これからの授業に出てもらえるよう説得…。そう六道先生の前で決意したのに、その数分後の帰路で偶発的に当人と出会ってしまっては、掛ける言葉なんて何処を探しても見つかりそうにない。


夜道は気を付けて帰るんだぞ。


…って何か違うな。


こら、こんな遅くに出歩くなんて…!


……これも違う…ような。


あーでもないこーでもないと獄寺を凝視しながら思考を巡らせていると、獄寺は顔を逸らしながらつっ立ってる俺の横を通り過ぎようとした。


「あ、待って…!」


「…っ!」


頭より体が先に動いた。

だから、思考が追い付いて、現状を把握した途端、俺の思考は停止して、頭の中は真っ白になった。


俺は、咄嗟に過ぎ行く獄寺の腕を掴み、引き止めていたのだ。






つづく

持ち主巡り  END
2011.09.17

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