復活novel2
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連れてこられたのは駅ビルの地下にある、高級志向の居酒屋だった。
さすが六道先生、一体何人の女性をここへ連れてきたのか…。と、ついつい余計な思考が働いてしまう。
間接照明のみで薄暗く、全てが個室と言うのだから、俺が女なら確実に身構えているはずだ。
「ここのオーナーと知り合いで、たまにフラッと立ち寄るんです。」
会話の中でそんな事を言っていたような気がするが、俺はまた違った意味で肩の力が抜けず、気の利いた言葉ひとつ出てこなかった。
だってそうだろ。これから話す内容は、酒の肴になるようなものではないのだから。
通された部屋には木製のモダンなテーブルセットがあり、出てきた料理はイタリアンをベースにした創作料理だった。
何から何まで洒落ていて、物凄く落ち着かない…
そんな俺の心情を知っているのかどうなのか、六道先生は無常にも話を切り出してきた。
「獄寺隼人についてですが、……」
「あ、はい。」
「僕は月に一度、彼と面談をしています。どのような内容かは察しが付くと思いますが…」
「お、俺の授業についてですか?」
正直聞くのが怖い。月に一度面談をしているだなんて、やはり体育の単位について……いや、俺の指導方法に問題があったに違いない。
六道先生はその問いには答えず、ビールを口にした。
「ところで、季節はもう秋ですね。」
「え?…はあ…」
本題に入ったかと思えば、とりとめのない話題がぽんと出てきて、一瞬気が削がれた。
一体何を言いだすのだと、ポカンと六道先生の形の良い容姿を見ていると、次の言葉に背筋が凍ることになる。
「貴方が彼をほったらかして流れ着いた季節ですよ。」
「…!」
思わず箸を落としそうになった。
ある程度の言葉は覚悟の上だったが、ここまで直球で辛辣な言葉だとは…
嫌な汗が背中を伝う。
「何故彼と向き合おうとしないんです。このままでは進級出来ないんですよ?」
「………………。」
返す言葉もない。
うちの学園は教師の質に重きを置いているという節があり、保護者は安心して我が子を預けられる…それが売りだ。
俺は学園が求める教育者であろうと努め、授業の進捗状況ばかり気にしていた…
仕事量は既に俺のキャパを越え、生徒を個別にフォローするなんて余裕はなかった。
これは事実だ。でも、今思えば教育者の存在理由を完全に失念していて、これらが最低な言い訳に当たる事は理解出来ている。
だから…俺は六道先生に何も言えなかった。
「クフフ…。意地悪な言い回しをしてすいません。その様子じゃ、山本先生はとっくに後悔なさっている。」
六道先生は泡が消えた分だけビールを注ごうとしたので、慌てて両手をグラスに添えて酌を受けた。
「うちの学園は教師をデータで管理していますし、保護者を顧客扱いしますからね。一度は自らの立場を見失うんです。僕も新米だった頃、貴方のように道を見誤って…ある一人の生徒を追い詰め、中退に至らしめた過去があります。」