SSU
□伝えたい
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※先生×高校生
担任の雲雀先生が好きだ。
そう自覚したのは高校入学して直ぐだった。
先生が視界に入るたびに心臓が蹴飛ばされたみたいに脈打って、途端に体温が上がる。
そんな甘酸っぱい感覚を知って、この春で二年目になる。
所詮叶わぬ恋心。
歳は一回りも離れていて、教師と教え子で、同性。
どうあがいても叶うはずなんてない。
そうは思いつつも、沸き上がる感情に蓋が出来るわけでもなく、どうにかこの想いを伝えたいという衝動に駆られる時がある。
例えば、バレンタイン。
2月に入ると意識しないようにしていても、浮ついた雰囲気に飲まれてしまう。
不毛な恋心であっても伝えて良しとされる、そんな御触れでも出ているかのようだ。
バレンタインデーが迫っているこの時期の商店街は、どこもかしこも華やかな装いをしてターゲットである女性に呼び掛けている。
そして、帰宅ラッシュ時の夕方にはその呼び掛けに応える女性が目につく。
部活帰りの女子生徒もちらほら…
一介の男子高校が入り込める空気もなければ、込み合っていて物理的なスペースもない。
俺は店の前で二の足を踏んで、少し考えてから結局は踵を返した。
やっぱり不条理な恋心を表に出すなんて間違ってる。
だいたい男の俺が、どうやって先生にチョコを……
そう諦め掛けた時、ある事を思いついた。
先生の靴箱とか、事務机とか、匿名性を利用してこの気持ちを一方的に伝える事は可能だ。
特別な日だし、伝えるだけなら…許されるよね…?
溢れんばかりに成長してしまった恋心の捌け口が見付かったような気がして、俺は衝動のままにコンビニで売られている個包装の駄菓子を数点購入した。
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バレンタイン当日。
浮ついた空気が最高潮に達していると感じるのは、俺がその当事者だから。
渡す側が味わう焦燥感は、手に汗握る程不安なものに違いない。しかし、同じく渡す立場にいても、匿名で気持ちを伝えるだけの俺には、高揚した気分を味わうだけのお気楽な時間が流れていて、それは完全下校時に差し掛かるまで続いた。
朱色に包まれた廊下は静閑としていて、先生の靴箱にチョコを投函するのは容易く思えた。
一応周りを確認して、こっそり持参していたチョコをスクールバッグの底から取り出して、靴箱を開いた。
錆びた鋭い音にどきりとしながら、素早く手を突っ込んだ。
だが……
「え……?」
そこには俺のチョコが入る隙もなく、ぎっしりと他の人間の想いが詰められていた。